2013年6月8日土曜日

バルサルタン事件に警察は大いに関心あり?



京都府立医大論文撤回に見るノバルティスの「威光」

 まずは大まかな構図を示す。製薬企業が大学に金銭を供与し、論文を書かせる。論文のデータは捏造。仲介者として特定の社員の名前がささやかれている。企業はその論文を販促ツールとして活用。年間1000億円を売り上げる――。
警察当局の関心事
 製薬と大学が組んだ一大詐欺事件。
 「警察当局は非常に興味を持っているようです」(国立大学教員) 
  今のところ、名前が挙がっているのは次の5大学。京都府立医科大学、東京慈恵会医科大学、滋賀大学、千葉大学、名古屋大学だ。名古屋大を除く4校に論文捏 造の嫌疑が掛けられている。共通しているのは製薬企業の名前だ。ノバルティスファーマ。売上高で世界2位に入るスイス企業の日本法人が関与していた。
  ノバルティスはかつてACE阻害薬の市場で一世を風靡した。さんざん稼いだ後、やがて特許切れを迎える。ノバが次に売り出した薬がARBだった。ARB市 場は4000億円。日本市場の特徴はACE素材ではなく、ARBをやたらと使っていることだ。海外ではACEをよく使う傾向がある。ARBはその分使われ る機会が少ない。欧米の市場構成とはまさに対象的だ。
 降圧剤を扱っている製薬企業の言い分に耳を傾けてみよう。
 「理由は簡単です。ACEを作った会社がARBも作っています。ええ、ノバです。マーケティングを活用した販促の成果でしょう。ACEの特許が切れている以上、ARBで稼ぐしかない」
 ACEを飲むと、空咳が出やすくなるといわれている。だが、これも怪しい。日本人だけに突出して空咳が出るようなことが起きるのか。
 「日本の循環器内科の先生方はよくそうおっしゃる。ノバのMRは自ら『あれもマーケティングしたからこそです』と断言している」(前出)
 外資系製薬企業の日本法人は事実上、営業部隊のみの編成。アングロサクソンの原理そのものの「肉食獣」たちは国産企業とはまったく別の価値観で行動している。
 それにしても4000億円市場だ。そもそもACEは特許切れの医薬品。これを売ったところで、売り上げは伸びない。「ARBがいかに効くか」をPRすることは製薬企業にとって死活的な問題である。
 この分野でノバは1000億円の売り上げをはじき出している。武田薬品工業も同じく1000億円。その後を第一三共が追っている。事件はそんな環境の中で起きたといえる。
  2007年に第71回日本循環器学会総会・学術集会で発表されている「慈恵ハートスタディ」。ノバも関わっており、日本人の高血圧患者を対象にした初の大 規模臨床研究といわれていた。論文では「血圧は下がらないが、心筋梗塞や脳卒中は減る」と説いている。このときのデータに捏造の疑いが持ち上がった。これ は販促ツールにしたとみられる。
 「臨床研究をやっている最中からあまり評判はよくありませんでした。血圧が下がっていないのに、なぜこの試験でだけそんなことが起こるのか。研究の途中で評価項目をねじ曲げたこともある。うさんくさいと評判でした」(国立研究機関職員)
 12年春には京都大学の教授が「データが不自然にそろっている」と指摘した手紙をオランダの医学雑誌『ランセット』に送付した。同社はこれを公表する。だが、慈恵医大の関係者は反応しなかった。
  「『ランセット』は捏造に対し、かなりナーバスになっています。MMRワクチンと自閉症の関連を示す論文を掲載したところ、後で捏造が発覚。社会問題化し たことがあったからです。読者が離反する。『ランセット』は非常に怒っている。まあ、彼らの目が節穴ともいえるわけですが」(前出の国立大教員)
 『ランセット』は反対意見を掲載する。12年春以降、京都府立医大も同じような事態に陥ったが、こちらも何ら対応はしていない。
 今年2月、論文撤回を毎日新聞がスクープ。それ以降、問題が表面化する。『フライデー』をはじめ、ほかのメディアも追随した。
 5月には小室一成・東京大学医学部循環器内科教授が米国の雑誌『フォーブス』に顔写真入りの記事で登場した。記事の前半は小室氏がかつて書いた論文におけるデータへの疑念、後半はノバルティスの医薬品の臨床研究をめぐる疑惑で占められている。何が起こっているのか。
出処進退が最後の決め手
 米国の大学に籍を置くある研究者はこう慨嘆している。
  「日本の臨床研究の信頼性は地に落ちています。『アベノミクス』でiPS細胞を使い、再生医療だとはしゃいでいますが、何を出してもまともに受け取っても らえないかもしれない。製薬企業が大学に金を出し、データをいじり、その研究論文が世界的なジャーナルに載る。こんなことをしたら、どうなるか。構造的な 問題に各大学は陥っているんじゃないでしょうか」
 これほどの事象にもかかわらず、当事者は「調査中」を建前に何年にもわたって逃 げ隠れを続ける。こちらは逃亡ではなく、昨年春、辞職の道を選んだ東京大教授の論文捏造、不正に関してもいまだに調査が続いている。中にはすぐに結果が出 る事例もあるが、残念ながら影響力に乏しい研究者の場合であることが多い。なぜ、ここまで論文捏造の発覚が続いているのか。前号でお伝えしたからくりが存 在する。きっかけはインターネット上のブログだった。
 「ブロガーがアプリケーションソフトを活用し、論文の中で同じデータを使い 回していないかを確認している。かつては不正の発覚といえば、『研究の再現性がないこと』と相場が決まっていました。ところが、最近ではデータの形式上の 問題から足がついている。大きな変化です」(前出とは別の国立大学教員)
 これでは言い訳はできない。だが、大きな研究室をマネジメントする教授にも言い分はある。画像ソフトでいじられたものまで見分けるのは容易なことではないだろう。
 「信頼回復の最終的な決め手はやはり出処進退。小室氏は学界のプリンスともいえる本流中の本流。彼の身の処し方一つに日本の臨床研究の明日がかかっているといっても過言ではありません」(前出の教員)
 ネット社会の成熟で明るみに出た不正の連鎖。大学と企業がずぶすぶの関係を続けてきたのは間違いない。だが、果たしてうみはこれで出し切ったといえるのだろうか。
 「ブロガーのチェックにこれからどれくらい引っ掛かるのか。その結果、不正の裾野がどこまで広がるのか。恐らく誰にも正確な予想は困難でしょう」(前出の職員)
集中 2013年6月 4日 04:08


詐欺で刑事事件化されるのでしょうか?

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