2013年8月4日日曜日

高血圧薬不正―これは構造的な問題だ

高血圧薬不正―これは構造的な問題だ


 人気薬をめぐる不正が、日本の研究機関の構造的なひ弱さをあぶり出している。
 製薬大手ノバルティスの高血圧治療薬ディオバンについて、東京慈恵会医大の臨床研究でもデータ操作が明らかになった。
 京都府立医大と同様に元社員がデータ解析を担当した。会社に有利な結論になるように改ざんした疑いが一層高まった。
 会社側は先日、「改ざんの証拠は見つからなかった」と発表したが、それで済ませられるはずがない。
 深刻なのは、今回が氷山の一角かも知れないことだ。これまでの両大学と会社の調査結果からは、医学界と製薬業界の根深い問題が露呈した。
 まず、日本の臨床研究の技術と基盤が実に貧弱なことだ。
 慈恵医大の医師たちは、責任者だった教授も含めて、「自分たちにはデータ解析の知識も能力もない」と口をそろえたという。これは、そもそも自分たちには臨床研究の立案能力がないとの告白に等しい。
 第二に、学界は最低限の研究倫理も疑われていることだ。
 両大学ともデータ解析を元社員まかせにしていながら、論文にその事実を明記していなかった。慈恵医大の場合、一流医学誌の論文掲載基準に合わせるため、「データ解析グループは資金提供者とは独立していた」と虚偽の記載までしていた。
 第三に、学界と業界のもたれ合いである。カネも能力も乏しい研究者側の弱みにつけ込むように、製薬業界が資金と労力を提供し、学界は長年、無反省にそれを受けとってきた。
 京都府立医大では1億円、慈恵医大では8400万円の奨学寄付金が、仕切り役の教授にわたっていた。研究上の使い道を限らない資金である。前後してノバルティス側は高血圧薬の臨床研究を持ちかけ、データ解析も引き受けた。
 研究者は企業のお膳立てどおりに患者のデータを集めさえすれば、自分の業績となる論文ができる。企業は、論文を使って製品の宣伝に役立てられるという腐敗しやすい構図だ。
 慈恵医大は今後の対策として、研究行動のルールづくりや倫理教育の強化、データ解析を支える臨床研究センターの学内設置などを打ち出した。これまで実行していなかったのが問題というものばかりだ。
 医学論文の虚偽記載は、科学への裏切りともいうべき行為であり、失われた信頼の代償はあまりに大きい。ほかの大学や大病院も早急に、臨床研究体制を見直すべきである。

朝日新聞 社説 2013.8.1

写し

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