2013年8月6日火曜日

論文捏造、データ改ざん次々 業績競争の陰 科学者に誘惑

論文捏造、データ改ざん次々 業績競争の陰 科学者に誘惑


(2013年8月1日) 【中日新聞】【朝刊】【その他

「科学者」による論文、データの改ざん、捏造(ねつぞう)問題が続出している。人類の発展に貢献する崇高な学問の最前線で、こうした不正や疑惑が絶えないのはなぜか。科学者が研究費を確保するため「派手な業績」を追い求める構造、再発防止策などを考えた。(小倉貞俊)
研究費は成果次第


「日本のすべての研究が世界で信用を失いかねない事態になっていると言っても過言ではない」
 東京大医科学研究所の上(かみ)昌広特任教授(医療ガバナンス論)は、科学者によるデータ改ざん問題について強い危機感を示した。
 特に7月は研究者による論文の捏造やデータの改ざんが次々と明るみに出た。

製薬会社ノバルティスファーマ(東京)が販売する降圧剤を使って京都府立医大の松原弘明元教授が行った臨床研究について、大学側は11日、論文の データに人為的操作があったと発表。30日には東京慈恵医大も同じ降圧剤のデータを操作する不正があったことを認めた。いずれも降圧剤の「効果」を強調す るためのデータ改ざんだったとみられている。
 7月下旬には、東大分子細胞生物学研究所の加藤茂明元教授らが過去に発表した論文に複数の改ざん、捏造があったことが発覚している。
 昨年10月、「iPS細胞を使った世界初の心筋移植手術を実施した」との虚偽の発表をして大騒ぎになった元東京大病院特任研究員の例は記憶に新しいが、この種の科学者による「不正行為」は後を絶たない。

■「発表か死か」

 不正はなぜ、起きるのか。「科学者の不正行為」の著書がある愛知淑徳大の山崎茂明教授(科学コミュニケーション)は「背景にあるのは、研究環境の悪化 だ。『華々しい業績を挙げないといけない』という成果主義がより強まってきており、多くの研究者が強烈なプレッシャーにさらされている」と指摘する。
 科学者が評価される尺度は「有名な専門誌にどれだけ多くの論文を発表したか」というもので、「パブリッシュ・オア・ペリッシュ」(発表するか死か)とも指摘される厳しい状況だという。
 加えて山崎教授は「国からの補助金は、提案して審査を通らねばもらえない競争型の研究資金の比重が高まっている。また若手の研究者らの雇用が任期制で、立場が不安定なことも要因だ」と強調。カネをめぐる競争社会が科学者を不正に走らせる原因とみる。
 総合研究大学院大の池内了教授(科学技術論)の見方も同じだ。「2004年に国立大学が法人化されて以降、主要財源である文部科学省か らの一般運営費交付金が毎年1%ずつ削られ、すでに1割減になっている状況だ。『論文を書かないと金取れず、金がなければ研究できず』といった構図もあ り、追い詰められている」と科学者の置かれている悲しい現状を説明する。
 結果を出さないとカネがもらえない。カネを引っ張ってこなければ出世もできない。不正なデータを使ってでも「結果」を出したくなる構造が判断をゆがめるのか。科学者としては若手の40、50代は特に誘惑にかられやすいともいう。
 池内教授は「一定の地位を確保して落ち着いている世代とは違い、研究者として岐路に立っている人がほとんどだ。改ざんに手を染めたり、その指示を出したりと、つい魔が差してしまう」と残念そうに語った。
不正告発 捨て身の覚悟


■閉鎖的な環境
 
 別の背景もある。リーダー格の科学者がデータを改ざんしても、いさめたり、やめさせたりしにくい環境があることだ。
 上特任教授は「数年前のこと」と前置きした上で、「複数の研究室で、大学院生らの若い研究者が指導者から『こういう実験結果のデータがほしい』と求められ、数値を改ざんさせられるケースがあったと聞いた」と明かす。
 研究室では指導者の立場は絶対的。指導者の指示に従わなければ大学の中で孤立しかねず、将来や、場合によっては雇用の継続にさえ関わっ てくるという「体育会的」体質が強いようだ。こうした閉鎖的空間の中では、指導者がデータを改ざんしても口を挟みにくく、その結果、不正に携わってしまう こともある。
 山崎教授が相談を受けたケースでは、ある若手研究者が教授との共同研究を論文に発表する際、教授から「グラフのゆがみをならしてシンプルにするように」と要求された。若手研究者が拒否したことで関係が悪化し、結局、この人は科学の世界から去ることになったという。

 東大分子細胞生物学研究所の加藤元教授らのケースでは、加藤氏本人が知らないところで部下が行っていたとされる。しかし、池内教授は「直接頼まれ なくても、その研究室のトップの意向や圧力を感じて不正に走ることもある。せっかく、トップが研究費を取ってきたのだからと考えるからだ」と実情を明か す。
 こうした環境では、トップの不正を告発しにくい。不正告発のための窓口を置いている大学、研究機関もあるが、告発者にとっては、捨て身の覚悟が必要なため、なかなか利用されない。
 文科省は06年、同省が研究費を出している研究の不正行為に対する告発窓口を置いた。だが実名、匿名合わせて告発は例年10件前後にと どまっている。上特任教授は「むしろ、最近は研究論文がインターネット上で公開されるようになり、ブロガーがネット上で不正を指摘して問題が発覚する事例 が増えてきている」という。

■倫理面教育を

 後を絶たない科学者の不正をどう防止するか。科学者の倫理教育の徹底しかないと池内教授は強調する。「科学者は科学的真実に誠実であるべきで、倫理を守 ることは大前提だ」と訴え、(1)説明責任(2)研究のマイナス面を警告する社会的責任(3)不正を防ぐ倫理責任−の3つを再認識してほしいという。
 不正を行った科学者を厳しく罰する仕組みを求める声も出ている。上特任教授は「ノバルティスファーマの問題は悪質で、犯罪と言っていい。第3者機関で取り締まることも必要ではないか」。池内教授は「悪質な不正を働けば、確実に研究の世界から追放される、という認識を学会や研究者間で共 有していくしかない」と語った。


写し
--

ようやくメディアも研究不正の原因や動機について報じるようになりました。この原因や動機はずいぶん前から指摘されていたことです。必ず改善してほしいです。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。