2013年12月20日金曜日

コピペ・捏造、論文にあらず 不正対策に大学本腰

コピペ・捏造、論文にあらず 不正対策に大学本腰

2013年12月20日10時00分


【渡辺志帆】論文盗用やデータのでっちあげなど、大学での研究不正が後を絶たない。学術成果を無償でインターネット上に公開する動きが世界で進んで いることが、今まで以上に不正を犯しやすい環境を生み出しているようだ。不正発覚によって大学が受けるダメージは計り知れないと、各大学は対策を本格化さ せている。
■発表前にネット照合
 「博士論文を電子媒体化する作業が走り始め、非常に危険な領域に入りつつある」
 11月に和歌山市で開かれた国立大学協会総会で、名古屋大(名古屋市)の浜口道成総長は、約80人の学長らに呼びかけた。
 他人の著作を盗用し、自分のもののように発表することを「剽窃(ひょうせつ)」という。名古屋大は同月、発表前の論文をインターネット上の著作や学術誌データベースと照らし合わせ、過去に公表された著作物と似ていないかを調べる剽窃対策サービスを全学で導入した。4月に学位規則が改正され、博士論文の公表方法が、従来の「印刷」から「インターネットの利用」に変わったことも受けての対応だ。
 博士論文は、かつては大学や国立国会図書館に足を運ばないと読めなかった。今後は、大学内の学術成果を集めて管理する電子サービス「機関リポジトリ」や国立国会図書館のサイトで無料公開される流れがさらに加速する。そうした中、研究者が、罪悪感もないまま「コピー・アンド・ペースト(切り張り)」して作った論文がひとたびインターネット上に出回れば、大学が受けるダメージは計り知れない。
 名古屋大も導入した世界最大級の剽窃対策サービス「iThenticate」の国内販売担当者によると、不正研究で大学がこうむる損害は、事実関 係の調査費や補助金の打ち切りなどで、1件あたり約52万5千ドル(約5400万円)と試算されるという。名古屋大の剽窃対策サービスは年300万円のコ ストがかかるが、藤井良一副総長は「お金には換えられない、大学の信用が失われるリスクを避ける必要がある」と話す。
 倫理教育に力を入れる大学もある。10月に論文不正で開学以来初めて博士号の取り消し処分をした早稲田大東京都新宿区)。毎年約1万人に上る学部新入生らは、情報リテラシーを学ぶオンライン講座を受講する。合格しないと大学のネットワークIDを使えなくするなど、「倫理教育は他大学に比べても早くからやってきた」という。
 だが、同大の大野高裕教務部長は「幼い頃からインターネットに親しんだ今の学生は、剽窃が悪いことだとよくわかっていない者が多い」。一部のクラ スで、リポートなどの課題提出物を昨春から本格導入した剽窃検知システムにかけたところ、およそ1割が他人の著作と30%以上似ているという結果が出た。 これは「教員が経験的に盗用を疑うレベル」という。
■データを長期保存
 研究データのでっちあげである「捏造(ねつぞう)」も、深刻な研究不正の一つだ。
 東京大学病院内に設けられ、全国の研究者や学生ら約30万人が利用登録する「大学病院医療情報ネットワーク」(UMIN)は11月、臨床試験の不正予防などを目的に、すべての研究者が利用できる症例データリポジトリの運用を始めた。リポジトリでは、患者の個人情報を伏せた臨床研究症例のデータを無料公開。データの長期保存が可能になるため、資料が廃棄されて検証できない事態を防ぐことができ、研究者間の相互チェックも可能にする世界初の試みという。
 文部科学省系の独立行政法人科学技術振興機構(JST)の集計によると、1977年から2012年10月までに国内で発覚した研究不正は114件。このうち、6割が盗用やその疑いがある不適切な引用で、3割を捏造や改ざんが占めた。人文社会科学系の不正は9割が盗用型であるのに対し、自然科学系は半数以上が捏造・改ざん型だった。
■背景に電子化・雑誌高騰
 研究成果をインターネットで無料公開する「オープンアクセス」の動きは世界的な流れだ。
 背景には、1980~90年代の電子化やインターネット普及と、学術雑誌高騰がある。オープンアクセス化の動向に詳しい東大教育企画室の船守美穂 特任准教授によると、冷戦下の研究開発競争で研究者が増え、発表される論文と学術雑誌数が急増。学術雑誌の購読料は年約10%ずつ値上がりし、大学図書館 や研究予算を圧迫するようになった。
 こうした事態に、欧米の学術界は普及し始めたばかりのインターネットを使って対抗。大学や学会の「リポジトリ」上で学術成果を無料公開したり、独自の無料電子ジャーナルを発刊したりする「オープンアクセス運動」を展開した。
 当時の円高の影響で、日本は欧米ほど雑誌高騰の弊害を受けなかった。国がオープンアクセス促進をうたうのは11年の第4期科学技術基本計画からだが、国内の環境は整いつつある。
 船守特任准教授は「オープンアクセスは不可逆の流れ。博士論文のネット公表義務化も、研究成果を多くの人に見てもらえるプラスの面から捉えるべき だ」と話す。ただ、特許侵害や研究不正など課題もあるとして、「どうすれば効率よく学術情報を共有・流通させ、新しい知の創出の循環を作り出せるか、博士 論文公表の議論をきっかけに、考えていく必要がある」と話している。

朝日新聞
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改善が進むとよいです。

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