2014年6月5日木曜日

クローズアップ2014:STAP研究、白紙 疑惑消えぬ幕引き 「調査逃れ」専門家は批判

毎日新聞 2014年06月05日 東京朝刊
STAP細胞論文を巡り、所属する理化学研究所から不正認定を受けても一貫して論文撤回に反対していた 小保方(おぼかた)晴子・研究ユニットリーダーが、同意に転じた。研究成果は白紙に戻る見通しになったものの、論文への疑惑は理研の調査終了後も相次ぎ浮 上している。理研や文部科学省は不正調査の継続に消極的だが、日本の科学の信頼回復に徹底調査が必要だとの声は根強い。【須田桃子、清水健二、根本毅、大場あい】
 「なぜ一方的に彼女に責任があるような報道がされているのか、理解しにくい」。小保方氏の代理人、三木秀夫弁護士は4日、STAP細胞論文に対する疑義が相次いでいることについて、記者団に語った。
 小保方氏の不服申し立てが退けられ、理研の調査委員会が活動を終えた5月8日以降も、理研内外の調査で新たな疑義が次々と報道され、2本の論文全体に疑義が拡大、STAP細胞の存在が大きく揺らいでいる。
 論文の著者の多くが所属する理研発生・再生科学総合研究センター(CDB、神戸市)の自己点検調査の過 程で判明したのが、少なくとも計6件の画像やグラフに関する疑義だ。その中の2件は、胎盤の細胞にも変化するとされるSTAP細胞の高い万能性を示す、重 要な実験の画像だった。論文1本の責任著者の若山照彦・山梨大教授が保管していた、STAP細胞由来の細胞の第三者機関による遺伝子解析では、すべての株 で、実験に使っていないはずのマウスの特徴が確認されたことも、毎日新聞の取材で分かった。
 新たな疑義が報じられるたび、理研は「報告は受けたが、調査を求める通報とはとらえていない」などと、 再調査には消極的な姿勢を示し続けた。一般に、撤回されることが決まった論文の調査は実施されないことが背景にある。外部識者による改革委員会(岸輝雄委 員長)は5月22日、理研に再調査を求めたが、理研は「著者間で論文撤回の動きがある」として調査は不要と判断したことを明らかにした。野依良治理事長は 「改革委の申し出は真摯(しんし)に受け止めなければいけない」と述べているものの、再調査が始まるかどうかは不透明だ。このため4日開かれた改革委で は、改めて新たな調査委員会を理研が設置して、調査を再開するよう求めた。
 理研の消極的な対応には、専門家からも批判の声が上がる。小原(こはら)雄治・日本分子生物学会研究倫 理委員長は「論文が撤回されるからといって理研は調査を終えてはならない。どのデータが間違っているのか、なぜ間違いが起きたのか、問題点を明らかにしな いと改革のしようがない。全て調べて明らかにするのが理研の責務」と話す。
 三木弁護士は4日、小保方氏が撤回に同意した理由について、「さまざまな精神的圧力を受け続ける中で、 同意せざるを得ない状況に追い込まれた」と説明したが、ある国立大教授は「撤回同意は不正の調査を逃れるためと思われても仕方ない」と話す。一方、不祥事 対応に詳しい宮野勉弁護士(第一東京弁護士会)は「小保方氏は、STAP細胞の有無と論文撤回は別問題だと頭の中で整理できたのではないか。これ以上の調 査を避けるための撤回というなら、もっと早く撤回していたと思う」と話す。

 ◇検証実験成否と特許、焦点

論文の撤回によって研究が白紙に戻ると、STAP細胞の存在が再び焦点となる。理研は4月から始めた検証実験を今後も続ける予定だ。文部科学省は「論文のさらなる調査をしなくても、(STAP細胞の有無は)検証実験で判断すればいい」と言い切る。
 検証実験は共著者の丹羽仁史・理研プロジェクトリーダーらが中心になり、論文の手順に従ってSTAP細胞を作製。それに成功すれば、マウスの受精卵に注入してSTAP細胞が全身に散らばるキメラマウスを作り、万能性を証明するとしている。来月にも中間報告を出す。
 ただし、失敗しても仮説が完全否定されるわけではなく「小保方氏がやればできる」と主張する余地が残 る。このため理研改革委の岸委員長は「『ある』という人(小保方氏)が、期間を限ってやって、できなければ『ない』ということにしないといけない」と、小 保方氏の実験参加を提案。理研も4日、小保方氏が検証チームに助言をしていることを認め、実験に直接携わる可能性もあると明かした。
 だが小保方氏については現在、懲戒委員会が処分を審査中だ。仮に解雇などになれば、その後も協力を続け られるのか、どのような身分で関与するのかなど不明な点も多い。「検証結果が出る前の処分は拙速」(私立大教授)との声が上がる一方、懲戒委の処分先延ば しにも批判はある。
 一方、特許の問題も残っている。理研と小保方氏が所属していた東京女子医大、米ハーバード大関連病院の 3機関は、昨年3月にSTAP細胞作製の国際特許を出願した。世界知的所有権機関(WIPO)日本事務所によると、論文が撤回されてもそれだけでは出願は 取り消されず、特許を与える各国の判断になるという。
 理研は「検証実験の結果を踏まえて判断したい」と、論文が撤回されても当面は放置する方針だ。特許に詳しい国立大教授は「本当にこの分野の研究を目指す人にとって、今の特許出願が邪魔な存在になる恐れがあり、科学の発展につながらない」と、理研の姿勢に懸念を示す。

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