STAP細胞の問題をめぐり、
理化学研究所の
小保方晴子ユニットリーダーによる検証実験の期限が11月末に迫っている。近畿大は独自に、体の細胞を酸に浸すことで
STAP細胞ができるか試みてきたが、作製できなかった。理研で小保方氏とは別に検証を進める丹羽仁史プロジェクトリーダーの中間報告と同じく、理研以外の研究機関でも再現できていない。
近大の検証実験は、朝日新聞大阪科学医療部が2月中旬、
STAP細胞を理研以外の研究機関で再現できるか調べる企画を打診。すでに実験を始めていた近大がこの企画に応じたことから、記者が実験の経過を追う形で取材を進めていた。
近大医学部によると、実験には、万能細胞特有の
遺伝子が働くと、緑色に光る処理をした生後3週間前後のマウスの尾から採った線維芽細胞を使った。理研は主にリンパ球を使っていたが、
STAP細胞の論文(1月発表、7月撤回)では、体のどの細胞でも作製できるとし、線維芽細胞からの作製効率も25%程度とグラフで示していた。
近大は塩酸などでpH5・7の弱酸性にした溶液に細胞を約30分間浸し、4日間程度培養。10月末までに約30回の実験を繰り返した。
実験1回ごとに細胞の塊は複数できたといい、緑色のみに光る細胞の塊と、緑色と赤色の光があわせてみられる細胞の塊が混在していた。緑色のみが光れば、万能細胞特有の
遺伝子が働いていると考えられる。一方、他に赤色などの光も見られる場合は、死にゆく細胞で起きる特徴的な現象とされる。
そこで万能細胞特有の
遺伝子が働いている量を解析したところ、ほとんど働いていない元の線維芽細胞よりも増えていたが、
ES細胞と比べると、数分の1から数十分の1しかなかった。
論文共著者でハーバード大の
チャールズ・バカンティ教授は9月、酸にATPという細胞の代謝にかかわる物質を使う方法を公表しており、近大はこの方法も試したが、再現できなかった。
実験を主に担った近大医学部の竹原俊幸助教(
幹細胞生物学)は「培養環境を変えると
遺伝子の働きが変わることはある」と説明。万能細胞特有の
遺伝子でも「機能しているかどうかとは別の話だ。今回は
遺伝子の働く量が少なく、意味はあまりないとみられる」と話す。マウスの体に入れていろいろな組織になれるか万能細胞の確認をする実験には進めないと判断した。
大阪大の仲野徹教授(幹細胞学)は「万能細胞でみられる
遺伝子が、ストレスに応じて働くのはあり得る話だ」と指摘する。ただ、
遺伝子の働く量は細胞の性質を大きく変えるほどではないとして「初期化と結びつくとは言えない」と話している。
■理研の調査、迫る期限
理研の検証は、4月から取り組んでいる丹羽氏のチームと、7月から始まった小保方氏による実験が別々に進んでいる。
撤回となった論文では、マウスのリンパ球を塩酸でpH5・7にした弱酸性の溶液に浸し、
STAP細胞を作ったと主張。マウスに注射していろいろな組織になることや、胚(はい)に移植して「
STAP細胞」由来のマウスになったと記載していた。検証で万能細胞ができたことを証明するには、このマウス作製まで進む必要がある。
論文発表直後から、
関西学院大学や香港の研究者らが再現を試みたが、
STAP細胞は作製できなかった。
丹羽氏は8月、検証の中間報告を公表。7月末までに論文の方法で22回実験したが、再現できなかった。検証は3月末まで継続し、今はマウスの種類を変えたり、酸以外の刺激を与えたりして調べている。
小保方氏による検証は、理研が「熟練した技術が必要になる可能性がある」として丹羽氏とは別に実施。実験するのは小保方氏1人で、監視カメラの付
いた部屋で第三者の立ち会いのもと、論文通りに作製できるかを検証する。期限は11月末で、理研は「進展がみられない場合には打ち切る」とする。
(野中良祐)
朝日新聞
2014.11.13
写し.