2015年4月1日水曜日

医師に謝礼、1000万円超184人 製薬会社、講演料など 13年度分、朝日新聞集計

2015年4月1日05時00分


 国内の製薬会社72社が、2013年度に医師へ支払った講演料や原稿料を公表した。朝日新聞が集計したところ、のべ約10万人の医師に計35万件 の講演などで総額約300億円が支払われていた。1千万円を超えたのは184人で、最高額は240件の講演料などで4700万円だった。医師個人が製薬業 界から受け取った金銭の全容が明らかになるのは初めて。医学系の各学会が病気ごとに定める「診療指針」の作成医も多額を受け取っていた。▼3面=推奨薬決 める医師を重視、39面=講演会で医師は
 医師が製薬会社から受けた金銭情報を公開する欧米での動きを受け、大手製薬会社が加盟する業界団体の日本製薬工業協会(製薬協)は11年1月に 「透明性ガイドライン」を策定。日本医学会は翌2月に製薬会社との利害関係について指針を作り「多額の金銭が提供されると研究成果の解釈や発表でバイアス がかかる可能性がある」として情報公開の動きに同調した。
 製薬協加盟72社と関連会社は、13年から医師や医療機関に支払った金銭情報をそれぞれ公表し始めた。医師個人への支払額は1年遅れ、14年8月から順次公開。今年2月末に全社が出そろい、朝日新聞が集計した。
 医師が製薬会社から得る副収入は3種類ある。約8割を占めたのが「講師謝金」で計251億4千万円(35万5800件)。製薬会社が開く講演会で 講師となり、臨床現場の医師に治療法や薬の情報などを話すことへの謝礼だ。製薬会社発行の冊子などに書く原稿執筆料は計15億3千万円(2万800件)、 新薬開発に助言するコンサルタント料は計33億円(3万1300件)だった。
 金銭が支払われたのはのべ9万8千人を超え、その約95%は100万円未満だった。一方、1千万円を超えた184人の約8割が大学教授だったほ か、大病院や研究機関の幹部が占めた。このうち、診療指針を作成した医師が76人いた。指針には病気の推奨薬が示され、多くの医師が処方の参考にするた め、中立性が求められている。
 国の審議会で新薬を審査する医師は、過去3年のうち審査に関係する製薬会社1社からの受取額が年500万円以上であれば審査に、年50万円以上で 採決に参加できない。学会発表する場合、1社あたり年50万円以上の提供を受けた会社名を明示するよう求める医学系学会もある。
 (渡辺周、沢木香織)

 ■<解説>医療費使途考える契機
 製薬会社の売り上げの大半は、医師の処方が必要な医療用医薬品が占めており、年間約10兆円に上る。日本は国民皆保険のため、製薬会社から医師に支払われる金銭には、私たちの税金や保険料が多く含まれていると言える。
 製薬会社はこれまで、こうした金額を公表してこなかった。病院で使う薬の選定をめぐる贈収賄事件や、大学での臨床研究に製薬会社が不適切に関与するなど、長年にわたる相次ぐ不正の影響で公開に踏み切らざるを得なくなったのだ。
 製薬会社がウェブサイトなどで公表した医師への支払い情報を、医療関係者だけの問題とみなすのではなく、私たちの医療費がどう使われているのかという視点で積極的に活用したい。薬を処方する権限を握る医師の判断に、製薬会社との利害関係で偏りが生じていないかを点検することもできる。
 (月舘彩子)

朝日新聞

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