アルツハイマー病研究の国家プロジェクト「J―ADNI(アドニ)」の臨床研究データに基づいて米国学会誌で発表した論文について、筆者の1人である杉下守弘元東大教授が20日、データの14%に改ざんを含む不適切な例があったとして、共同筆者12人に論文撤回をメールで呼びかけた。STAP細胞の論文撤回問題で揺らぐ日本の先端医療研究への信頼がさらに失われる可能性がある。
杉下氏はJ―ADNIにデータ検証の責任者として参画する一方、認知症研究の国内第一人者で代表研究者を務める岩坪威東大教授ら12人と共同でアルツハイマー病患者の脳の特徴を探るために行うPET(陽電子放射断層撮影)に関する論文を2013年8月、米国の神経放射線学会誌に発表していた。
杉下氏が論文発表後に新たな資料を入手し検証した結果、論文に使ったデータ274例中、14%の39例が①記憶を試す面談検査で国際的手順に合わせる目的で検査時間を改ざんした②被験者の同意を得ていなかった③被験者が基準外の年齢だった――など不適切だったことが判明したという。
杉下氏は「使えないデータが1割以上あれば論文として価値がなく、取り下げざるを得ない」と判断。今月17日にJ―ADNIの改ざん疑惑を調べている東大の調査委員会に論文撤回の必要性を訴え、20日に共同筆者12人にメールで「論文を取り下げることを皆様に提案する」と呼びかけた。
さらに自らが筆頭筆者を務めた記憶力テストに関する論文も「不正データが含まれていることが明らかになった」とし、撤回する意向を共同筆者に伝えた。
朝日新聞が改ざん疑惑を1月に報じた際、J―ADNIの主要メンバーは「このデータを使った論文はまだ発表されておらず、改ざんとは考えていない」と反論し、疑惑解明に消極的だった。別のメンバーは「疑惑発覚後、筆者たちは論文取り下げを恐れて何もしてこなかった。今後は取り下げを検討せざるを得なくなる」と指摘する。
岩坪教授と東大は「調査中で答えられない」、厚生労働省は「不正が明らかになれば対応する」としている。厚労省は杉下氏の内部告発メールを無断で岩坪氏に転送するなど疑惑解明に後ろ向きだ。(渡辺周、青木美希)
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〈J―ADNI〉 アルツハイマー病の早期治療や予防を目指し、記憶力低下と脳画像の関係などを調べる。07年以降、38施設が参加し、国と製薬会社が計約33億円を投入。昨年にJ―ADNI2も始動した。今年1月にデータ改ざん疑惑が朝日新聞報道で発覚。杉下氏の内部告発メールを厚生労働省が無断で代表研究者に転送したことも問題化した。
朝日新聞
2014年3月21日
写し。
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