学術論文に使う写真の捏造(ねつぞう)やデータ改竄(かいざん)-。製薬会社ノバルティスファーマの治療薬をめぐるデータ改竄事件をはじめ、研究現場での不正が次々と明るみに出ている。理化学研究所などのチームが発表したSTAP(スタップ)細胞の論文にもさまざまな疑念が抱かれ、日本の科学技術への信頼が揺らぎかねない状況だ。「真理」を追究すべき科学の世界で、不正やずさんな行為がなぜ横行してしまうのだろうか。(伊藤鉄平、道丸摩耶)
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語らぬ動機
「不正については大学の調査が続いており、コメントできない」。過去18年間にわたる論文で、画像の捏造などが発覚した東大の元研究員は、産経新聞の取材に重く口を閉ざした。
東大が昨年12月に発表した中間報告によると、この元研究員が在籍した分子細胞生物学研究所のチームは平成8年以降、骨ができる仕組みやホルモンが作用する仕組みに関する論文で、画像編集ソフトを使って写真を合成したり、過去の研究で使った画像を使い回したりしていた。
その数は実に210カ所。43本の論文が撤回されるべきだと指摘されたが、調査では不正を行った研究者の特定には至らず、動機も解明されないままだ。
なぜ不正が起きるのか。「博士漂流時代」などの著書がある近畿大医学部の榎木英介講師(42)は「あくまで一般論だが…」と前置きした上で、「不正の背景には、国際的な競争の激しさがある」と指摘する。
発表か死か
榎木氏によると、世界の研究者と成果を競う基礎研究の世界には「Publish or Perish(発表か死か)」との格言がある。著名な科学誌に次々と論文を出し、「名声」を勝ち取らなければ研究者として埋没する。国からの研究費も減り、さらに研究が進まなくなる“負の連鎖”に陥るのだという。
しかも「研究成果は『2番じゃダメ』。一番乗りでないと意味がない」(榎木氏)。論文はその確実性を増すため、第三者が論文内容を検証する「追試」を行うケースもあるが、「待っていると海外の研究者に出し抜かれる」との焦りから、未熟なままの論文が発表されることも少なくないという。
文部科学省によると、研究者に助成する平成25年度の科学研究費(科研費)は計2400億円。同年度は10月までに研究者から9万7764件の新規申請があったが、実際に研究費が出されたのは2万6355件とわずか27%にすぎない。
研究費の争奪戦は激しく、榎木氏は「ばれなければいいとデータをいじったり、やってないことをやったとみせかけたりする不正が生まれる」と指摘する。
企業と癒着
一方、ノバルティスファーマ社の高血圧治療薬「ディオバン」を使った京都府立医大などの臨床研究では、論文に使われた解析データが製薬会社の都合のいいように操作されていた。
ノ社は大学側に計11億円超の奨学寄付金を拠出しており、榎木氏は「製薬会社は薬を売るため都合の良い研究にカネを出す。それが癒着や不正を生む温床となっている」と指摘する。
製薬会社の“丸抱え”の研究では「自社商品にとって有利な結果」が過度に期待されるあまり、不正が起きやすいというわけだ。
不正を防ぐにはどうすべきなのか。東京大学医科学研究所の上(かみ)昌広特任教授(45)は「真相を究明し、担当者を処分することしかない」と話す。
ただ、上氏は「現在は、内部調査のみで第三者調査を行わなかったり、調査を長引かせてほとぼりが冷めるのを待ったりする甘い対応が目立つ」と指摘。内部の不祥事を隠蔽(いんぺい)、矮小(わいしょう)化するような研究機関側の対応が「不正をむしろ助長し、信用を失墜させている」という。
低いモラル…研究費で家族旅行も
国から研究費の助成を受ける大学などの研究機関では、流用や不適切な会計処理も後を絶たない。
文部科学省によると、架空取引で業者に研究費を管理させる「預け金」や、カラ出張などで裏金化した「プール金」などの公的研究費の不正使用は平成13~23年度に46機関で計約3億6100万円に上った。
大半が年度末に予算を使い切るための不正処理で、後に高額な顕微鏡やパソコンを購入したり、学会への出張費などに使っていた。
また、私的流用が確認されたケースもあり、消耗品を転売して着服したり、家族旅行の資金や自宅のエアコン購入費に充てたりしていた。
流用をめぐっては、東大政策ビジョン研究センターの教授が、データベース作成業務などをIT関連会社に発注したように装い、計約2180万円を私的流用したとして、昨年8月に詐欺罪で起訴されている。
産経新聞
2014.3.23
その1、その2、その3、その4、図1、図2。
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これと同じことを昨年のバルサルタン事件の時も報じられました。全然改善していないということです。必ず改善を。
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