(がん新時代:61)「がんは放置してもいい」は本当か 主張と反論
2013年12月15日05時00分
医師の近藤誠さんが書いた「医者に殺されない47の心得」は、今年のベストセラーとなりました。しかし、近藤さんの「がんは放置してもいい」という考えには、ほとんどのがん専門医が「助かる命も救えなくなる」と批判しています。近藤さんの主張と、第一線の腫瘍(しゅよう)内科医である勝俣範之さんの反論を紹介します。
■「医者に殺されない47の心得」の著者 慶応大医学部講師・近藤誠さん
【主張】
・がんは発見時に転移が潜む「本物」と、転移しない「がんもどき」に二分類される
・「本物」は手術でも抗がん剤でも治らない。「もどき」は治療が不要。よって、無症状なら治療はしなくてよい
・検診を受ければ死亡数が減るという根拠はない
・抗がん剤の臨床試験の生存曲線は形が不自然で、人為的操作があったと推測できる
・生活の質を上げるための治療は必要
■自覚症状なければ治療は不要
がんは検診で早期発見されても、その時点で転移が潜む「本物」と、転移しない「がんもどき」に分けられます。本物は基本的に抗がん剤で治らず、手術はがん細胞の増殖を速める恐れがあるから治療は無意味です。「もどき」は転移しないから治療の必要がありません。どちらにしても、自覚症状がないなら何もしなくていい。これが「放置療法」です。
今のがん診療は、早期発見して治療したら治るという前提で組み立てられています。しかし、根拠がありません。
外国の研究で、肺がんの検診を受けた人の方が、受けていない人より死亡数が多いとの報告があります。早期発見で余計な手術や抗がん剤治療を受けたせいでしょう。ほとんどの国では肺がん検診は行いません。乳がんも、検診を受けても亡くなる人の数が減らないという報告があります。前立腺がんは死亡数の差がありません。
一般的に早期だと「もどき」の割合が多いのです。マンモグラフィーで見つかる乳がんは99%「もどき」なので、私は「診断を忘れなさい」と言って帰します。これまで検診でさまざまな部位にがんが見つかった150人以上を様子見してきたが、ほとんど転移が出ません。
まれに「本物」の場合もあります。5ミリの乳がんを放置した私の患者さんは、数年後にがんが大きくなり、その後転移も出てきて、18年後に亡くなりました。がんの成長速度から、初発病巣が0・04ミリのときに転移していたと推定されました。
ただ、すべてのがんを放置するわけではありません。大腸がんによる腸閉塞(へいそく)など、生活の質を下げる自覚症状があるなら、治療すれば長生きできることもある。肝がんは「もどき」でも早期発見に意味がないとはいえません。乳がんの「もどき」も乳房の皮膚を破る場合は部分切除を勧めることもあります。
抗がん剤に延命効果があるとした臨床試験の結果には、人為的操作の疑いがあります。多数の患者さんをきちんと追跡すると、生存曲線は下に凸になるはずですが、不自然に持ち上がっている。転移患者は多くが数年以内に亡くなるのに、追跡できなくなった人を「生存」とするから生存率が落ちないのです。
乳がんの抗がん剤ハーセプチンも生存期間は延びません。臨床試験の生存曲線に人為的操作が疑われます。薬が効いて元気なのではなく、「もどき」だったのです。ほかの分子標的薬も、肺がんなど固形がんには無力です。ただし、血液のがんや睾丸(こうがん)のがんなどは、抗がん剤で治る可能性があります。
国内外の論文分析と、患者さんの症例をもとに主張しています。症例報告は科学的根拠が低いと批判されるが、放置しても転移しない例が一つでもあれば強力な反論材料になるのです。
4月にセカンドオピニオン外来を開き、1300人来院しました。無症状の人は治療しない方がいいと伝え、生活の質が向上しそうなら治療方法を示します。決めるのは患者さんですが、最良の結末になることを願います。
(聞き手・小林舞子)
*
慶応大医学部卒。83年から同放射線科講師。米国留学後、乳房温存療法を国内に広めた。65歳。
■第一線の抗がん剤専門医 日本医科大武蔵小杉病院教授・勝俣範之さん
【反論】
・がんは「がんもどき」と「本物のがん」に二分類はできない
・過剰治療の側面はあるが、治療しなくていいがんかどうかは見極められない
・検診による過剰診断を示すデータはあるが、検診の全否定にはつながらない
・「臨床試験の生存曲線は人為的に操作された」という主張に科学的根拠はない
・放置療法により助かる命も助からないこともあり、この主張は危険
■一部患者に当てはまる「仮説」
近藤先生は、がんには「がんもどき」と「本物のがん」しかなく、積極的な手術や抗がん剤は不要、と主張しています。面白い説ですが、これは一部の患者さんに当てはまる「仮説」です。
がんの治療には色々な考え方、選択肢があるということを提案した点では、近藤先生の主張は評価できると思います。ただ、医学的データを近藤先生の 個人的な偏った見解に基づいて極端に示しており、患者に混乱をもたらしている点は注意が必要です。近藤先生が本で書かれている主張を「すべて正しい」と判 断するのではなく、「一部の患者さんに当てはまる」と読むと、理解しやすくなると思います。
がんに積極的な治療が行われているのは、こうした治療に効果のあるがんが確実に存在するからです。一部の患者さんには、過剰治療になるかもしれませんが、どんながんなら手術や抗がん剤が不要なのか、まだよくわかっていないのが現状です。
検診による過剰診断を示すデータがあることも確かです。それでも、一部の研究結果をもって、検診の有効性をすべて否定することにはなりません。最近、乳がん検診で過剰診断が行われていることがわかってきましたが、検診をすべてやめた方がいいとの見解にまでは至っていません。
現在、遺伝子のタイプを調べて積極的な治療の必要の有無を見極めようという研究が進んでいます。例えば、乳がんの抗がん剤ハーセプチンは特定の遺伝子に変異があるがん患者さんには非常に有効で、生存期間が大幅に延びました。
近藤先生がハーセプチンの臨床試験について「生存曲線がおかしい。人為的操作が加わったと思われる」と主張しているのは、全く根拠がありません。承認に関わる臨床試験(治験)のデータは国による立ち入り調査も行われるため、人為的操作を行える隙がありません。
「放置療法の勧め」という言葉を聞いたときは、本当に驚きました。近藤先生の元に通う患者という一部の偏ったデータに基づいているわけで、それは科学的根拠になりません。
インフォームド・コンセントは、患者さんの自己決定が大切と言われますが、正しい情報を提供されることが大前提です。5ミリの早期の段階で乳がんが見つかった近藤先生の患者さんも、手術をすれば、90%以上の確率で治ったはずです。正しい情報をしっかり伝えられた上での自己決定だったのか、疑問です。
進行がんにやみくもに抗がん剤を使うのは、私も反対です。そういう意味では放置療法もやはり、一部の患者さんには当てはまるのです。ただ、「放置すべきだ」という一方的な言い方ではなく、正しい情報提供と、患者さんの意向を尊重する良いコミュニケーションが大切です。
放置療法は、近藤先生の個人的な考えによる「仮説」です。患者さんやその家族は、放置することの危険性を十分に理解してほしいと思います。
(聞き手・岡崎明子)
*
富山医科薬科大卒。国立がん研究センター中央病院乳腺科・腫瘍内科外来医長を経て現職。50歳。
◆日本対がん協会から
がんの経験者が自らの病気について語る、とはどういうことでしょうか。
今月初旬の土曜日、東京・秋葉原でがん経験者、医療関係者、国の政策担当者、メディア関係者が集まり「キャンサー・サバイバー・フォーラム」(日本医療政策機構、キャンサーネットジャパンなど主催、日本対がん協会など後援)が開かれました。
「職場では後遺症も含めがんを知ってほしい。患者もがんを言い訳にしない」(清水敏明さん=舌がん経験)、「情報が得られず退院後に苦労した。情 報は貴重、シェアすることも大切」(岸田徹さん=胎児性がん経験)、「婦人科のがんは偏見をもたれやすい。事実を訴えていくことが使命と思う」(麻美ゆま さん=境界悪性腫瘍経験)と重みのある発言が続きました。
ろう者で乳がん経験のある皆川明子さんは「医師とのコミュニケーションに不安がある。筆談や身ぶりでは情報量も限られる。すべての人が安心して治療を受けられる社会にしたい」。
初めて講演台に立つ人もいます。嗚咽(おえつ)しながらも明るく振る舞い、命の大切さを訴えてました。
阿南里恵さんは23歳で子宮頸(けい)がんを発症。人には同じ苦しみをさせたくないと講演を始め、日本対がん協会でがん征圧に向け奮闘中です。「講演活動で人生が大きく変わった。多くの出会いがあり、国のがん対策推進協議会にも加わっている。皆さんも勇気をもって発信してください」
「がんを知って、がんの偏見をなくそう!」と宣言し、幕を閉じました。
(協会事務局長・塩見知司)
朝日新聞
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真偽はどうでしょう。
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