2013年6月22日土曜日

疑惑の薬・バルサルタン:/中 臨床試験に懸けた製薬企業 不透明な産学連携

『疑惑の薬・バルサルタン:/中 臨床試験に懸けた製薬企業 不透明な産学連携
毎日新聞 2013年06月22日 東京朝刊

 「パワーが違う」

 2007年以降、こんなコピーと共に降圧剤バルサルタン(商品名ディオバン)の広告が、大手医療雑誌に続けて掲載された。薬を車のエンジンに模し「JIKEI HEART」のエンブレムが輝く。同年4月に東京慈恵会医大が発表した臨床試験を前面に出し、他の薬と比べたバルサルタンの「強さ」をアピールしている。

 降圧剤は、体にどう作用して血圧を下げるかによって複数の種類がある。バルサルタンを含む「ARB」と呼ばれる種類は、6300億円(12年、薬価ベース)の大型市場。降圧剤の治療では一度使い始めた薬をずっと使い続ける傾向があるため、ARBを扱う多くの製薬各社がしのぎを削ってきた。

 発売は00年。ノ社はバルサルタンの商品イメージを赤色に統一した。赤は劇薬を連想させるため業界でタブー視されていたが、あえて赤を使った差別化戦略は成功し、5年後に年間売り上げ1000億円を達成する。ピーク時の09年には1400億円を売った。

 競争に勝ち抜くため、血圧を下げる効果に加え、脳卒中などの発症の危険性を下げる効果が証明されることを期待し、ノ社は大学側に臨床試験を提案していった。結局、臨床試験をしたのは5大学。このうち京都府立医大には、ノ社から1億円超の寄付金の提供があったことが3月末、情報公開請求した毎日新聞の報道で表面化した。

      ◇

 「業界全体で透明性を確保したいと取り組んでいる時期に非常に不愉快だ」。国内の製薬会社幹部は「バルサルタンの臨床試験は、企業と研究者との不透明な関係によって、公正さが失われたのではないか」という今回の疑惑に憤りを隠さない。欧米ではこの20年間で利益相反に対する取り組みが進み、日本でも本格化しているからだ。

 日本製薬工業協会(製薬協)は会員企業に対し、個々の医師に支払ったさまざまな金銭を来年度から公開するよう求めている。医学系118学会が加盟する日本医学会も、論文や学会発表の際には研究費の提供元を明示することを求める利益相反ガイドラインを11年に作成したばかりだ。

バルサルタンの座談会形式の記事広告には、日本高血圧学会を中心に有力研究者が繰り返し登場してきた。一方で、臨床試験の結果は複数の学会の診療ガイドラインにも反映され、現場の医師の治療を左右した。しかし、今年2月に京都府立医大の論文が掲載誌から撤回(取り消し)されたため、ガイドラインを見直す動きが出ている。

 疑惑の全体像を明らかにするには、研究者側へのあらゆる資金の流れの開示が不可欠なのに、利益相反に関するルール作りを各大学に指導してきた文部科学省は「製薬企業や大学が自主的に情報を公開すべきだ」(産業連携・地域支援課)と、あくまで大学などの調査待ちの姿勢を崩さない。

 宮坂信之・東京医科歯科大名誉教授は、医学系研究費の半分を民間資金に頼る日本の現状を踏まえて指摘する。「医学の発展のためには製薬企業の支援は今後も欠かせない。国策で産学連携を進めた結果として今回のような問題が起きたのだから、国は大学や企業任せではなく、積極的な対応をとる必要がある」

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 ■ことば
 ◇利益相反

 研究者が外部から資金提供を受けたことにより、研究の公正さを疑われる状態を指す。疑いを持たれずに産学連携を推進するには、研究者と資金提供者には資金に関する情報公開が必要とされている。


国は問題を指摘しても何も対応しません。これが不正改善の支障です。国の無責任な態度を必ず改善する必要があります。

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