2013年7月27日土曜日

論文改ざん―社会への背信行為だ

論文改ざん―社会への背信行為だ


 東京大学で、長年にわたって研究論文のデータ改ざんなどの不正が続いていた。
 科学研究の信頼性を根幹から揺るがす不祥事である。真相を明らかにし、早急に再発防止策を講じるべきだ。
 東京大の調査委員会が、分子細胞生物学研究所の加藤茂明元教授のグループが発表した論文を、過去16年さかのぼって調べた結果、不正が分かった。
 165本の論文のうち43本に、実験結果を示す画像などの改ざんや捏造(ねつぞう)、その疑いのあるものが見つかり、論文撤回が妥当と判断された。
 多くの研究者がかかわった共同研究で、なぜ不正が繰り返され、見逃されてきたのか。解明が求められる。
 近年、日本の研究者による論文の不正が相次いでいる。つい先日も、京都府立医大などで実施された高血圧治療薬の臨床研究で、論文データの改ざんが発覚したばかりだ。
 こうした不正は、治療や後続の研究を誤らせかねない。研究によっては多額の税金が投入されている。社会全体に対する背信として、厳しく対処しなければならない。
 背景には、不正を犯す誘惑が強まっているなか、それを防ぐ仕組みが伴っていないという事情がある。
 例えば、若手研究者はまず期限のある研究職に就き、任期中にあげた業績によって次の職場を探すことが一般的だ。
 一流誌に論文を発表することは、安定した職と多額の研究費を得ることにつながる。
 成果を求める教授や研究リーダーのプレッシャーも大きい。
 一方、論文は通常、身内の研究グループ内部と学術誌側でチェックされるだけだ。「研究者は不正はしない」という前提から、日本は欧米と違って研究倫理に関する教育も貧弱だ。
 こうした性善説ではもはや立ち行かないことは明らかだ。
 米国では90年代に政府に研究公正局をつくり、不正行為を調査、公表している。日本でもこうした機関の設置や、不正を告発できる仕組みの導入を検討すべきではないか。
 不正にかかわった本人だけでなく、研究の中核となった教授や所属研究機関の責任も厳しく問わねばなるまい。
 とりわけ医療研究における不正行為は、被験者や患者の生命を脅かしかねない。不正をした医師の免許停止など、より厳しい制裁も考えるべきだ。
 文部科学省が中心になり、再発防止に本気で取り組まねばならない。

朝日新聞 社説 2013.7.26 写し

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朝日新聞も研究公正局の設置を提言しました。性善説を前提に研究者の行為に対処するのは間違いだということは明白に立証されました。第三者の学術警察が積極的に研究不正を取り締まる必要があります。

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