2014年12月27日土曜日

STAP問題「研究者が毒矢刺す」 科学界から厳しい声

2014年12月27日00時56分

 STAP問題は科学者コミュニティーに突き刺さった1本の矢である――。理化学研究所の調査委員会が指摘したように、STAP問題は科学界に大きな禍根を残した。ES細胞混入というお粗末な結論に、科学界からは疑問の声があがった。

 御園生(みそのう)誠・東京大学名誉教授(応用化学)は「STAP問題という毒矢を生み、科学界に突き刺したのは、分子生物学の研究者たち自身だ。十分な議論や再現実験をせずに研究が進み、論文が発表された理由についてさらに調査する必要がある」と批判した。
 池内了(さとる)・総合研究大学院大名誉教授は「ES細胞の 混入は予想できたこと」とした上で、「理研も気付いていた可能性があるが、早い段階で出せば混乱が大きくなると恐れたのではないか。うがった見方かもしれ ないが、時間をかけて結論を出すことで、目立たないように処理しようとした印象がある。今後は著名な雑誌に載ったからうのみにするような『権威主義』も改 められるべきだ」と話した。
 日本分子生物学会副理事長の中山敬一・九州大教授(分子生物学)は「理研はこれで幕引きにせず、問題の背景を検証する必要がある。今後は学会の枠を超えて不正の定義など、科学界におけるルール作りが必要だ」と話した。
■「ハーバード大もSTAP調査」
 理化学研究所は26日の会見で、STAP細胞論文の責任著者の一人、チャールズ・バカンティ教授が所属するハーバード大学が調査をしていることを明らかにした。理研の有信睦弘理事が「ハーバード大学とは情報交換できる態勢にはなっている。調査が開始されたということも聞いている」と話した。ただ、調査に関する具体的な情報は入ってきていないという。
 ハーバード大学にはバカンティ教授のほかにも共著者の日本人医師が所属している。理研の川合真紀理事は「(共著者の)研究員の方にも資料提供の依頼を出しており、ハーバード大学とは連携して進めている」と話した。
     ◇
 STAP細胞をめぐる問題で、理化学研究所の調査委員会と理研が26日開いた会見の要旨は、次の通り。発言者は、調査委の桂勲委員長、理研の川合真紀理事、有信睦弘理事。
【調査委員会】
ES細胞の混入
 桂氏 小保方晴子氏は「混入の可能性はある」ということは言っていた。ただ、「私が混入をさせたことは絶対にありません」とも言っていた。
■調査の限界
 桂氏 2年も3年も続けられたらもう少し分かったかもしれないが、早く結論を出せという一般社会からのプレッシャーもある。理研の規則に従ってやった。
■STAP論文
 桂氏 これだけおかしいことがあり、優れた研究者の目を通っているはずなのに表に出てしまった。非常に不思議な論文だ。
【理研】
■懲戒委員会
 有信氏 今回の報告を受けて再開予定。(懲戒処分の)対象者は明確なことは言えない。
■今後の調査
 有信氏 調査委ができうる限りの調査をした。可能なことはやり尽くした。これ以上やるつもりはない。
■特許と研究費返還請求
 川合氏 (特許出願の取り下げを呼びかけていると)理解してもらっていい。(共同研究した)ハーバード大にも働きかけている。
 有信氏 (研究費の返還請求は)理研内部の規定、国のガイドラインに照らし合わせて検討する。方針はまだ決まっていない。
■検証実験
 川合氏 試料の全貌(ぜんぼう)が解明できたのは8月末以降。(実験を早く打ち切れなかったのかとの声もあるが)そのときにまだ調べきっていないことがあった。もう一度(事実関係を)判断するということで、11月末の段階で全体の結論を出したと理解している。

朝日新聞

2014年12月26日金曜日

ES細胞混入、残った謎 小保方氏「私は絶対ない」

2014年12月26日12時20分

 「STAP細胞」とされたものは、別の万能細胞である「ES細胞」に由来する細胞だった――。この1年間、世間を騒がせたSTAP細胞論文への疑義の結論が26日、理化学研究所の調査委員会から示された。しかし、なぜES細胞が混入したのか、だれがかかわったのか、依然謎は残ったままだ。

 「結論を申しますと、STAP幹細胞は残存試料を調べた限りでは、すべて既存のES細胞に由来していた。それから、STAP細胞からつくったキメラマウス、テラトーマ(腫瘍(しゅよう)組織)もその可能性が非常に高い。故意か過失か、だれが行ったかは決定できない」
 調査委の委員長を務める桂勲・国立遺伝学研究所長は、約150人の報道陣を前に、スライドとともに説明を始めた。
 STAP細胞の作製や、細胞をマウスの受精卵に注入してつくるキメラマウスの作製には小保方晴子元研究員のほか、山梨大の若山照彦教授がかかわった。だが、細胞を作製する際、研究室の培養装置内に約7日間、置かれたままになっていた。当時の研究室には、多くの人が夜間に出入りすることが可能だったという。
 桂委員長によると、小保方氏にES細胞混入の可能性について尋ねたところ「私はESを混入させたことは絶対ない」と否定したという。「科学者としては、ピペットの誤操作があれば入るかなという感覚もあるが、証拠がないのに判断してはいけない」と述べた。
 若山教授の研究室関係者は26日朝、若山教授は研究室で会見の様子を見守ると説明した。若山教授が会見を開く予定はなく、理研の発表を見たうえでコメントを出すか検討するという。
 小保方氏の代理人の三木秀夫弁護士は、大阪市内の事務所前に集まった約20人の報道陣に「まだ何の協議もできていない。本人にも(調査結果の)内容は伝わっていないはずなので、何も言えない」と語った。

朝日新聞

STAP問題、解明に壁 論文作成、複雑な役割分担

2014年12月26日09時15分

  「STAP細胞」とされたものの正体は何だったのか。その解明を進めてきた理化学研究所の調査委員会が26日、結論を発表する。1月の論文発表以来、国民的関心を集めてきた騒動に理研として区切りをつけることになる。

 調査委は26日午前、委員長の桂勲・国立遺伝学研究所長をはじめ、大学教授や弁護士ら6人の委員が同席して東京都内で会見に臨む。その報告を受けて、理研の川合真紀理事らが理研としての対応を発表する。
 調査委の報告書では、STAP細胞からつくったとされる試料の中に別の万能細胞であるES細胞が混入していた可能性が高い、とされる見通しだ。混入は故意である疑いがぬぐえないという。
 ES細胞は作製方法がすでに確立された万能細胞で、研究現場では広く利用されている。「ES細胞説」は、STAP論文を疑問視する研究者らからこれまでもたびたび指摘されてきた。
 ただ、小保方晴子氏の論文作成を指導した理研の笹井芳樹氏(故人)や丹羽仁史氏ら共著者は、これまで「STAP細胞がないと説明できない現象がある」としてきた。
 その一つが、万能性の証拠となる「キメラマウスの実験」で、胎児と胎盤の両方が同時にできたとされることだ。ES細胞では同時につくることはできないとされ、撤回された論文には、マウスの胎児と胎盤がともに緑色に光る写真が掲載され、STAP細胞からできた証拠とされた。
 しかし、キメラマウスの実験をした本人である若山照彦・山梨大教授が6月の会見で「ES細胞からつくったマウスでも、胎児と胎盤が同時に緑に光ることがある」と釈明した。実験データを自らの目でよく確認せずに、論文が発表された可能性がある。
 また、真相解明を難しくする要因の一つに、論文が複雑な役割分担で作られていった事情がある。STAP細胞の論文の共著者は計14人。小保方氏が米ハーバード大のチャールズ・バカンティ教授のもとでSTAP細胞の 研究を始めたのが2008年。11年4月からは、当時理研のチームリーダーだった若山氏の研究室で研究を続けた。論文は一流科学誌で何度も不採用になった が、笹井氏の指導で書き直され、英ネイチャー誌で採用された。こうした役割分担のなかで、笹井氏が亡くなり、小保方氏も理研を去った。謎の部分も残ること になる。

朝日新聞

2014年12月19日金曜日

STAP、夢のまま終幕 理研「一つもできなかった」

長野佑介、佐藤達弥、矢吹孝文
2014年12月19日14時04分

 「科学の常識を覆した」と称賛された成果が淡く夢と消えた。理化学研究所は19日開いた記者会見で、STAP細胞は確認できなかったと結論づけた。4月に「STAP細胞はあります」と涙ながらに訴えた小保方晴子氏は、理研を去ることが明らかになった。
 「まず、最初に結論を申し上げさせて頂きます。STAP現象は再現することができませんでした。来年3月までの予定だったが、検証実験を終了することとしました」
 冒頭、実験総括責任者の相沢慎一特任顧問が実験の打ち切りを告げ、会見は始まった。東京都内の会場には約200人の報道陣が詰めかけ、用意した席はほぼ満席状態だった。
 相沢氏は小保方氏が7月から始めた検証実験について、スライド画像で説明。小保方氏は論文にある手法で、STAP細胞のような細胞を作製。別のマウスの受精卵に1615個の細胞の塊を移植し、細胞が混ざり合った「キメラマウス」が出来るかを、別の研究者が確認した。
 キメラマウスができれば、STAP細胞が存在する有力な証拠となる。だが、相沢氏は「キメラは作ることができなかった」と説明した。
 次いで、独自に検証実験を進めてきた丹羽仁史チームリーダーが説明。同様にキメラマウスができるかを確認したが、「244個の細胞塊を入れても、 一つもできなかった」と話した。相沢特任顧問は「これ以上の検討は、検証実験の範疇(はんちゅう)を超えるものと考える」と話し、検証実験を終了すること にしたと説明した。
 2時間以上にわたる会見を終え、退席しかけた相沢氏は立ち止まり「モニター監視や、立ち会いを置いた小保方さんの検証実験は、科学のやり方でない。そういう実験をしてしまったことに、検証実験の責任者としておわび申し上げるとともに、深く責任を感じている」と謝罪した。

■小保方氏の姿なく
 与えられた環境の中で魂の限界まで取り組み、今はただ疲れ切りました――。
 理研へ退職願を出した小保方晴子氏はこの日、コメントを発表した。「STAP細胞はあります」と自信をのぞかせた4月から一転。この日の会見に姿はなかった。
 小保方氏は4月の会見で「もう200回以上作製に成功しています」と強調した。存在を示す実験試料を研究室の中で保存している、とも説明していた。
 理研は7月、別の検証実験と並行して、小保方氏による実験をスタート。監視カメラと第三者の立ち会いのもと、論文どおりにSTAP細胞をつくれるのか検証してきた。理研の説明によると、小保方氏は11月29日まで再現を試みた。週4日は細胞培養をし、四十数回にわたり実験を繰り返したという。しかし期限の11月末までに再現することはできなかった。
 検証終了の判断は、相沢慎一・検証実験チームリーダーから直接、小保方氏に伝えられた。相沢氏は会見で「彼女自身は再現できなかった事実は認めて いるものの、なぜできなかったかという理由については困惑している。受け止められる状態ではないと思う」と述べた。会見は検証結果を説明する場だとして、 小保方氏には出席を求めなかったという。
 小保方氏は早稲田大大学院を経て、2011年に理研の客員研究員になり、13年には理研発生・再生科学総合研究センターのユニットリーダーに就任した。

■難病患者ら「存在してほしかった」
 「最後まで信じていたのですが……」。手足の先から筋力が低下していく原因不明の難病「遠位型ミオパチー」。患者会(東京都)の代表代行・織田友理子さん(34)は声を落とした。
 診断されたのは22歳。いまは自力で歩くのも困難という。「小保方さんが『STAP細胞はあります』と言い切っていた。本当であってほしかった」と話したうえで続けた。「難病の解明につながる研究は、自分の病とつながらなくても希望や励みになります。今回のことで日本の研究が後退しないよう願っています」
 脳の神経細胞が減って手足がふるえ、運動機能が低下するパーキンソン病。約8200人の患者団体「全国パーキンソン病友の会」(東京都)で常務理事を務める高本久さん(68)は、8年間にわたって実母(2011年死去)を夫婦で介護した。「会員同士の会合でも『STAP細胞が存在していてほしい』と願う声は根強かった」と語った。
 小保方氏の発表は女性の研究者に勇気と力を与え、メディアも「リケジョ(理系女子)」として取り上げた。神戸大大学院農学研究科で 分子栄養学を研究する山下陽子・特命助教(32)も「未来は明るい、ということを見せてくれた」「研究に興味をもつ女の子が増えてほしい」と期待した一人 だった。だが、いまは失望感だけが残る。「研究の世界に小保方さんが残したものは、『実験データには注意しないといけない』ということです」
 大阪府立大大 学院の工学研究科で物質化学を研究する平山由布妃(ゆうき)さん(23)も「女性も立派な成果を上げている」とモチベーションが上がった。その後、疑惑が 報じられると、教授からノートの書き方やデータの見方を厳しく指導されるようになった。「どんな実験データも正直に受け止めよう、と心がけるようになりま した。プラスの教訓もあった」。平山さんは、そう考えている。(長野佑介、佐藤達弥、矢吹孝文)

朝日新聞

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公式発表された。

2014年12月18日木曜日

STAP細胞、華々しい発表から1年 検証で再現できず

 朝日新聞 2014年12月18日15時00分

 STAP細胞は作製できず――。細胞の存在を一貫して主張してきた理化学研究所小保方晴子氏は自らの手でも証明できなかった。夢の細胞として、華々しい発表から約11カ月。一連の検証作業の試みは、終わることになる。

小保方氏らがSTAP細胞について発表したのは、科学誌ネイチャーへの論文掲載に先立つ1月28日。小保方氏は「誰も信じてくれないなかで、説得できるデータをとるのは難しかった」「四六時中、研究のことを考えています」などと笑顔で研究成果を語り、注目を浴びた。
 しかし、暗転は早かった。インターネット上で論文への疑いが向けられ、論文で示された手順ではSTAP細胞が作製できないとの声が上がった。
 疑念の指摘を受けた理研は調査を始め、4月には論文に「捏造(ねつぞう)」があったとの報告書を発表した。小保方氏は代理人の弁護士を通じて、「このままではSTAP細胞の発見自体が捏造であると誤解されかねず、到底容認できません」などとコメント。再調査などを求めて不服を申し立てた。
 小保方氏は4月9日に大阪市内で会見。論文の不備を認めて謝罪したが、「STAP現象は何度も確認されている真実。この現象に出会って以来、発表する使命感とともに毎日実験に取り組んできた」「200回以上作製した」などとSTAP細胞の存在を繰り返し強調した。
 一方、理研は4月から、丹羽仁史チームリーダーらによる検証実験を開始。論文での方法通りにSTAP細胞ができるかを調べた。しかし、8月の中間報告では「22回の実験の結果、作製できなかった」と発表。その後、マウスの種類や細胞の処理方法などの条件を変えて実験を続けてきた。
 同時に理研は7月から、小保方氏自身による検証実験を開始した。実験参加を求めていた小保方氏は「誰もが納得いく形で存在を実証するために最大限努力をする」とコメントを発表、「再現」への自信を見せていた。
 小保方氏による検証実験は、監視カメラがある部屋で、第三者が立ち会うなかで進められた。しかし、期限の11月末までにSTAP細胞を作製することはできなかった。
 同時並行で進められていた丹羽チームリーダーによる検証実験も、さまざまな細胞になれる万能性を確認する以前に細胞自体を作ることができず、来年3月末までの予定を繰り上げ、打ち切られることになったという。

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小保方晴子はどのように責任を取るのか。

STAP検証実験打ち切り 小保方氏・理研、確認できず

朝日新聞 2014年12月18日15時00分


STAP細胞をめぐる問題で、理化学研究所小保方晴子研究員が11月末までの期限で取り組んできた検証実験でSTAP細胞の存在を確認できなかったことが、理研関係者への取材でわかった。理研の別のチームが来年3月末を期限に続けていた実験でも確認できず、理研は両方の検証実験を打ち切ることにした。19日に記者会見を開き、発表する。会見には小保方氏は出席しない見通し。

STAP細胞の論文は小保方氏らが1月に英科学誌ネイチャーで発表し、7月に撤回された。小保方氏は7月から神戸市内の理研の施設で、監視カメラ付きの部屋で第三者の立ち会いのもと実験を始め、1人でSTAP細胞が再現できるかを調べていた。期限の11月末で実験は終了した。
 理研関係者によると、実験で得られたデータを分析したところ、論文に記載されたように、マウスの体の細胞を弱酸性の液体などで刺激する方法では、万能細胞ができなかったと結論づけられたという。
 小保方氏は4月の記者会見で、STAP細胞について「何度も確認されている真実」「200回以上、作製に成功している」などと主張していた。
 論文発表後、世界中の研究者が再現実験に取り組んだが、STAP細胞が作製できたという報告はない。論文著者の一人で理研の丹羽仁史チームリーダーらも、小保方氏とは別に4月から検証実験を開始。8月に「論文に記載された方法ではSTAP細胞はつくれなかった」と中間報告を発表した。その後も方法を変えて実験を続けていたが、結局、確認できなかったという。
 STAP細胞の論文では、マウスの体の細胞を弱酸性の液体で刺激するだけで、どんな細胞にもなれる万能細胞に変化するとされた。理研の調査委員会は4月、論文に研究不正があったとする報告書を公表。7月に論文が撤回された後、さらに疑義が指摘され、理研は改めて調査委を設置。STAP細胞問題の全容解明を目指している。この結果を踏まえ、理研の懲戒委員会が小保方氏らの処分を決める。

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検証打ち切りは当然。

2014年12月10日水曜日

バルサルタン:臨床試験疑惑 英誌が千葉大論文撤回 著者は同意せず

毎日新聞 2014年12月10日 東京朝刊

 降圧剤バルサルタン(商品名ディオバン)の臨床試験疑惑で、英医学誌が千葉大の論文を撤回していたことが分かった。データ改ざんの可能性を指摘した大学の調査結果を受けた措置。著者らは撤回に同意していないが、医学誌側が強制的に撤回した形だ。
 撤回されたのは2012年に英医学誌「ジャーナル・オブ・ヒューマン・ハイパーテンション」に掲載された論文で、今年10月9日付だった。同誌は「利益相反の管理とデータの信頼性に問題がある」と説明している。
 千葉大の調査委員会は、論文で使われたデータがバルサルタンに有利になるよう改ざんされた可能性を指摘。さらに試験責任者の小室一成教授(現東京大教授)ら著者を「虚偽説明で調査を混乱させた」と批判していた。千葉大は8月までに2度、著者らに論文の撤回を勧告している。
 一方、小室氏の代理人は取材に「撤回に同意していない」と話し、11年に別の医学誌に発表した主論文も撤回しない意向を示した。
 一連の論文には薬の販売元であるノバルティスファーマの社員が関わっていたが、論文上は社名が伏せられ、所属は「大阪市立大」となっていた。小室氏らは疑惑発覚後、この点を修正して再投稿していた。【八田浩輔】

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論文の強制撤回はジャーナルが不正を認めたということです。

2014年11月15日土曜日

万能細胞:STAP論文問題 小保方氏、研究員に「降格」 理研CDB、21日に再編

毎日新聞 2014年11月15日 東京朝刊

理化学研究所は14日、STAP細胞の論文不正問題の舞台となった発生・再生科学総合研究センター(神戸市)を21日付で「多細胞システム形成研 究センター」に再編し、論文の筆頭著者の小保方晴子・研究ユニットリーダー(31)を理研本部のSTAP細胞検証実験チームの研究員とすると発表した。実 質的な降格となる。
 竹市雅俊センター長は退任して特別顧問に就き、研究開発の助言に当たる。新センター長は来年3月ごろまでに決め、それまで柳田敏雄・理研生命シス テム研究センター長が職務を代行する。再編に伴い、理研本部の研究不正再発防止改革推進本部にチームを正式に設置し、小保方氏は一研究員として11月末ま で検証実験に当たる。12月以降はデータの整理を担当する。
 今年8月発表のアクションプラン(行動計画)に基づき、研究室数は40から20に半減する。小保方研究室など9を廃止し、11は理研内の別セン ターに移る。高橋政代プロジェクトリーダーらによるiPS細胞(人工多能性幹細胞)を使った目の難病の臨床研究は、新センターで進める。
 英語名は、発生生物学センターを意味する「センター・フォー・ディベロップメンタル・バイオロジー(CDB)」のまま変更しない。
 野依良治理事長は「発生再生科学分野の研究開発をより強力に推進する」とするコメントを発表した。【斎藤広子】

2014年11月13日木曜日

STAP、確認できず 近畿大、独自に検証 2月から実験30回

近畿大と理研の検証実験の比較

 STAP細胞の問題をめぐり、理化学研究所小保方晴子ユニットリーダーによる検証実験の期限が11月末に迫っている。近畿大は独自に、体の細胞を酸に浸すことでSTAP細胞ができるか試みてきたが、作製できなかった。理研で小保方氏とは別に検証を進める丹羽仁史プロジェクトリーダーの中間報告と同じく、理研以外の研究機関でも再現できていない。
 近大の検証実験は、朝日新聞大阪科学医療部が2月中旬、STAP細胞を理研以外の研究機関で再現できるか調べる企画を打診。すでに実験を始めていた近大がこの企画に応じたことから、記者が実験の経過を追う形で取材を進めていた。
 近大医学部によると、実験には、万能細胞特有の遺伝子が働くと、緑色に光る処理をした生後3週間前後のマウスの尾から採った線維芽細胞を使った。理研は主にリンパ球を使っていたが、STAP細胞の論文(1月発表、7月撤回)では、体のどの細胞でも作製できるとし、線維芽細胞からの作製効率も25%程度とグラフで示していた。
 近大は塩酸などでpH5・7の弱酸性にした溶液に細胞を約30分間浸し、4日間程度培養。10月末までに約30回の実験を繰り返した。
 実験1回ごとに細胞の塊は複数できたといい、緑色のみに光る細胞の塊と、緑色と赤色の光があわせてみられる細胞の塊が混在していた。緑色のみが光れば、万能細胞特有の遺伝子が働いていると考えられる。一方、他に赤色などの光も見られる場合は、死にゆく細胞で起きる特徴的な現象とされる。
 そこで万能細胞特有の遺伝子が働いている量を解析したところ、ほとんど働いていない元の線維芽細胞よりも増えていたが、ES細胞と比べると、数分の1から数十分の1しかなかった。
 論文共著者でハーバード大のチャールズ・バカンティ教授は9月、酸にATPという細胞の代謝にかかわる物質を使う方法を公表しており、近大はこの方法も試したが、再現できなかった。
 実験を主に担った近大医学部の竹原俊幸助教(幹細胞生物学)は「培養環境を変えると遺伝子の働きが変わることはある」と説明。万能細胞特有の遺伝子でも「機能しているかどうかとは別の話だ。今回は遺伝子の働く量が少なく、意味はあまりないとみられる」と話す。マウスの体に入れていろいろな組織になれるか万能細胞の確認をする実験には進めないと判断した。
 大阪大の仲野徹教授(幹細胞学)は「万能細胞でみられる遺伝子が、ストレスに応じて働くのはあり得る話だ」と指摘する。ただ、遺伝子の働く量は細胞の性質を大きく変えるほどではないとして「初期化と結びつくとは言えない」と話している。
 ■理研の調査、迫る期限
 理研の検証は、4月から取り組んでいる丹羽氏のチームと、7月から始まった小保方氏による実験が別々に進んでいる。
 撤回となった論文では、マウスのリンパ球を塩酸でpH5・7にした弱酸性の溶液に浸し、STAP細胞を作ったと主張。マウスに注射していろいろな組織になることや、胚(はい)に移植して「STAP細胞」由来のマウスになったと記載していた。検証で万能細胞ができたことを証明するには、このマウス作製まで進む必要がある。
 論文発表直後から、関西学院大学や香港の研究者らが再現を試みたが、STAP細胞は作製できなかった。
 丹羽氏は8月、検証の中間報告を公表。7月末までに論文の方法で22回実験したが、再現できなかった。検証は3月末まで継続し、今はマウスの種類を変えたり、酸以外の刺激を与えたりして調べている。
 小保方氏による検証は、理研が「熟練した技術が必要になる可能性がある」として丹羽氏とは別に実施。実験するのは小保方氏1人で、監視カメラの付 いた部屋で第三者の立ち会いのもと、論文通りに作製できるかを検証する。期限は11月末で、理研は「進展がみられない場合には打ち切る」とする。
 (野中良祐)

朝日新聞

2014.11.13

写し.

2014年10月5日日曜日

研究不正疑惑、東北大が告発不受理 外部調査見送る

井上明久前総長らによる論文で使い回しの疑いが指摘された画像

東北大の 井上明久前総長の研究不正疑惑をめぐり、複数の論文で同じ画像が使い回されている疑いを指摘した告発書を、大学側が受理せず、本格的な調査をしないと決め ていたことがわかった。大学幹部らによる調査で「不正ではない」と判断し、外部識者のいる調査委員会にゆだねるのを見送った。
 告発書は東北大の斎藤文良名誉教授と矢野雅文名誉教授の2人が、昨年11月に提出していた。その中で、2001年に井上氏らが発表した論文に不正の疑いがあると指摘。金属を電子顕微鏡で撮影するなどして得たとされる画像が、1999~00年発表の別の論文と同じだったり、極めて似ていたりすると告発した。
 論文に掲載された金属の作製条件は、それぞれ異なるため、同じ画像になることはあり得ないという。このほかにも、別の論文と同じものに見えるデー タがあり、告発書は「論文全体が極めて不自然。写真を取り違えたなどの単純ミスというより、新しい実験データに基づいて書かれた論文を偽装した研究不正が 強く疑われる」とした。
 これに対し、大学側は9月16日付の文書で、斎藤氏らに回答した。指摘については「表示の誤りである可能性が高い」としつつも、11年に別の人物 から似た内容の告発があったときの調査で「研究不正にはあたらないと確認された」と説明。このため、「告発を受け付ける必要はないと判断した」という。
 東北大は内部規定で、研究不正の告発を受けた場合には、学外の識者らでつくる調査委を設けることになっている。一方で、告発への「初期対応委員会」を理事や副学長らで設置することを、井上氏の疑惑が指摘され始めて以降の09年に決定。今回の告発の不受理は、この委員会が決めた。
 「誤り」を認めつつ「不正ではない」と判断した理由について、東北大広報課は朝日新聞の取材に「秘密保持となっているため、お答えできない」としている。(小宮山亮磨)

■不正告発への「初期対応委員会」メンバー(09年6月の「理事裁定」で決定)
①研究を担当する理事又は副学長
コンプライアンスを担当する理事又は副学長
③被告発者等の所属する部局の長
④広報を担当する理事又は副学長
⑤学外の専門的知見を有する者(研究を担当する理事又は副学長が必要と認めた場合)
⑥その他研究を担当する理事又は副学長が指名する者
 〈井上前総長の研究不正疑惑〉 井上明久氏は、丈夫でさびにくいという特徴を持つとされる特殊な金属の世界的権威で、06年から12年まで東北大総長を務めた。
 07年に匿名の投書で研究不正が指摘されたが、大学が立ち上げた調査委が同年末に不正を否定した。しかしその後も、同内容の論文を複数の雑誌に投稿していた「二重投稿」の疑惑などが次々と指摘された。
 追及を続けた教員グループを、井上氏が10年に名誉毀損(きそん)で提訴すると、教員らも反訴。仙台地裁は昨年の一審判決で「直ちに捏造(ねつぞう)、改ざんがあるとは言い切れない」として、教員グループに110万円の賠償を命じた。裁判は仙台高裁で継続中で、8月に予定された判決が延期され、10月に弁論が再開されることになっている。

朝日新聞 2014.10.5

写し

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本調査しないといけない。

2014年9月25日木曜日

東大論文不正:中核メンバーの群大・北川教授が退職 /群馬

毎日新聞 2014年09月23日 地方版

 東京大分子細胞生物学研究所の加藤茂明元教授グループによる論文不正問題で、中核メンバーの北川浩史(ひろちか)・群馬大教授が退職していたことが分かった。群馬大によると、退職は自己都合で8月31日付。別の研究職には就いていないという。
 加藤研については、東大の委員会が8月1日、論文5本の不正を認定。北川氏は4本の筆頭筆者で、実験画像を改ざんしていたという。東大は「懲戒処分に相当する」と指摘。群馬大も過去の研究・教育活動を精査しているが、「退職前に聞き取り調査は実施済み」という。
 加藤研グループに所属していた北川氏は多数の論文を著名雑誌に投稿し、2009年11月、群馬大生体調節研究所教授に就任した。【尾崎修二】

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懲戒解雇するべきでした。

2014年9月20日土曜日

万能細胞:STAP論文問題 石井氏論文「不正なし」 改ざん、悪意確認されず−−理研

毎日新聞 2014年09月20日 東京朝刊

理化学研究所は19日、STAP細胞論文の不正に関する調査委員長をしていた石井俊輔上席研究員の過去の論文に対する疑義について、「不正はな かった」とする予備調査結果を発表した。画像3カ所に正しくないデータが使われていたことを認定したが、故意ではなかったとして「研究不正には当たらな い」と結論付けた。
 石井氏は調査委員長だった4月、自身の論文のデータ改ざんなどを外部から指摘され、委員を辞任。理研は直後から計12本の論文の疑義を調べた。
 その結果、2008年に発表したがん関連論文で、3カ所の画像が別の画像の使い回しだったことが判明。理研は内規で「改ざん」と定義する「データ の真正でないものへの加工」に当たると判断した。一方で、内規は「悪意のない間違いは不正に含まない」としている。今回はデータをきれいに見せようとする などの悪意は確認できず、石井氏の「過失による取り違え」との説明を容認した。
 他に画像の切り張りなども複数あったが、いずれも「元データが確認できた」などとして不正を認めず、疑義を詳細分析する本調査を見送った。理研は予備調査メンバーの氏名を公表していない。【清水健二、須田桃子】

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不正が認められませんでした。

2014年9月3日水曜日

キスでお目覚め「お姫様細胞」 小保方さん、幻の命名案

 新発見の「STAP(スタップ)細胞」はこれまでの万能細胞と異なり、眠っていた力を呼び覚まして、自ら万能化する。開発した理化学研究所の小保方(おぼかた)晴子ユニットリーダー(30)は、「王子様にキスされて目覚めるお姫様」になぞらえた。


 「(名前は)プリンセス(Princess)のP細胞でどうかなと思ったのですが、没になりました」。小保方さんが、朝日新聞の取材にこたえた。
 生命の種である受精卵は分裂を繰り返し、皮膚や筋肉、神経などのさまざまな組織に育つ。いったん育った細胞が、元の受精卵に近い万能の状態に戻ることはないとされていた。
 その常識を覆した一人が京都大の山中伸弥教授だ。マウスの細胞に4遺伝子を入れて万能細胞を作り、人気商品のiPodにあやかってiPS細胞と名付けた。ただ細胞の中身に手を加える。損傷を減らしつつ作製効率を上げようと、競争が続いてきた。
 STAP細胞は、酸性の液体に浸すだけでできる。細胞の中身をさわらないし、作製効率も高い。
 少々荒っぽい「キス」をされ、死の淵(ふち)に追い込まれた細胞が覚醒する。結局、「STAP細胞」のほうがふさわしいとして採用されなかったが、小保方さんは白雪姫のようなプリンセスを思い描いたようだ。

朝日新聞 2014.2.2

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この命名は今となっては懐かしい。

2014年8月29日金曜日

前総長側の主張覆す新証拠採用か 東北大研究不正控訴審

 東北大の井上明久前総長(66)の研究不正疑惑を指摘した同大名誉教授らに対し、井上氏が名誉毀損(きそん)だとして損害賠償を求めた訴訟の控訴審で、29日に予定されていた仙台高裁の判決が延期され、弁論が再開されることがわかった。井上氏側に不正があったとは言えないと、一審で仙台地裁が判断した根拠を否定する文書が、新たに証拠として採用される可能性が高い。
 井上氏側の主張を否定する文書を書いたのは、井上氏の元部下で、東北大金属材料研究所の横山嘉彦准教授。当初は、井上氏側の原告の1人だった。
 井上氏は、強度が高くさびにくいとされる「金属ガラス」の第一人者だ。だが、直径3センチの金属ガラスを作ることができたとする1996年の論文などについて、他の研究者が再現できない、などとして不正の疑惑が浮上。この疑惑を指摘した名誉教授らを、井上氏側が2010年、名誉毀損で提訴した。一方、名誉教授らも反訴した。
 一審判決は、東北大が立ち上げた調査委員会の報告を根拠に、井上氏の論文が「虚偽のものであるとは言えない」と結論づけた。この報告の根拠となったのが、横山氏が井上氏と共同で07年に発表した論文。96年の論文と同様に直径3センチの金属ガラスを作れたとの内容で、これによって井上氏の論文の内容が再現されたと調査委は認めた。
 だが横山氏は今年4月の控訴審結審後に名誉教授側が高裁に提出した文書で、07年論文と井上氏の論文は研究手法が異なり、「再現」にはならないと主張。07年の論文ではその違いを示す記述が井上氏に削除されたとして、「私の意図とかけ離れたものになってしまった」と証言している。
 井上氏の代理人の大室俊三弁護士は「井上氏の論文が07年の論文で再現されたと、調査委が報告している事実は動いていない」と話す。

■疑惑否定の論文、元部下「せかされ執筆」
 横山氏は朝日新聞の取材に応じ、07年の論文を執筆した当時の状況や、井上氏との関係について語った。
 横山氏は04年、井上氏が所長を務めていた東北大金属材料研究所に赴任した。一審判決が井上氏側の不正を否定する根拠とした論文を書いた07年当時は、「精神的に追い詰められていた」という。井上氏から、「業績の少なさ」を理由に辞職を促されたからだ。
 当時は複数の論文の執筆を並行して進めていたが、「(井上氏から)この論文だけは、すごくせかされた。私は知らなかったが、(疑惑否定の根拠として)この論文を使おうと思っていたとしか思えない。非常に腹立たしいし、不本意」。直径3センチの金属ガラスができたと、その根拠が十分ではないのに論文に書いた理由については「記憶にない。ほかの研究に興味があり、私には重要な論文ではなかった」と述べた。
 横山氏は、井上氏について「午前2時半まで働き、午前7時に出勤するような働きぶりを見て、尊敬していた」。ただ、実験がうまく行かないと「なぜ できないのか」と繰り返し問い詰められることもあった。「当時は教育だと思っていたが、いま思えば、やり過ぎだ。マインドコントロール的なものがあったの かもしれない」と振り返る。
 損害賠償訴訟で当初、原告に加わったのは、井上氏から強く求められたためと説明する。断ったが、押し切られたという。井上氏が総長を退任して東北大を去ってから約1カ月後の12年5月、原告から降りた。
 昨年11月には、07年の論文を掲載した日本金属学会の学会誌に撤回を申し出た。仮に撤回されれば、大学の調査委の報告は、井上氏の論文に不正がないと判断した根拠の一部を失うことになる。(小宮山亮磨)

朝日新聞

小宮山亮磨
2014年8月29日13時59分


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控訴審判決はどうなるでしょうか。

2014年8月3日日曜日

東大論文不正:北川教授、捏造や改ざん 群大が研究活動精査へ /群馬

東大論文不正:北川教授、捏造や改ざん 群大が研究活動精査へ /群馬

毎日新聞 2014年08月02日 地方版

 東京大分子細胞生物学研究所の加藤茂明元教授のグループによる論文不正問題で、中核メンバーだった北川 浩史(ひろちか)・群馬大教授が論文の捏造(ねつぞう)や改ざんをしていたと認定された。群馬大は1日、調査委員会を設置し、北川教授の研究活動を精査す る方針を決めた。
 東大の科学研究行動規範委員会は今回、画像の不適切な切り張りなどがあった論文51本のうち5本の調査 結果を公表し、すべてに不正があったと認定。北川教授はうち4本の筆頭筆者だった。きれいに結果の出た部分の画像をコピーして別の部分に張りつけたり、反 応が出ない方が都合のよい部分に白い長方形をかぶせたりといった図の不正加工は「懲戒処分に相当する可能性がある」という。
 北川教授は2009年10月まで加藤氏の研究グループに在籍し、翌11月に群馬大生体調節研究所教授に就任。東大は外部からの指摘を受け、12年1月から加藤研の論文の調査を進めていたが、群馬大はこれまで独自調査をしていなかった。【尾崎修二】

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群馬大学はどこまで調査するのでしょうか。

2014年6月12日木曜日

バルサルタン:臨床試験疑惑 ノ社元社員、大学側に解析PC送る 疑惑発覚後、責任転嫁狙い?

毎日新聞 2014年06月12日 東京夕刊
 
 降圧剤バルサルタン(商品名ディオバン)の臨床試験を巡る薬事法違反事件で、東京地検特捜部に逮捕された製薬会社ノバルティスファーマ元社員、白橋伸雄容疑者(63)が、論文の不正疑惑が指摘され始めた2012年10月ごろ、パソコン(PC)と統計ソフトを京都府立医大に送付していたことが、関係者への取材で分かった。研究者側は「改ざん疑惑を大学側に押しつけるつもりだったのではないか」と指摘している。【山下俊輔、石山絵歩】
 府立医大の関係者は大学の調査などに、臨床試験のデータ解析は白橋容疑者に任せていたと説明しており、PCとソフトはいずれも、白橋容疑者が同大の臨床試験データ解析に使用したものだった可能性がある。特捜部もこの事実を把握しているとみられる。12日午前にはノ社本社を改めて家宅捜索し、法人としての同社の関与も含め改ざんの経緯の解明を進める。
 同大関係者によると、大学に送られてきたのは基本ソフト(OS)がウィンドウズのPC1台と、統計ソフト。白橋容疑者は自分の名前ではなく、任意の研究会の名義で送ってきたという。
 府立医大チームは04年に約3000人を対象とする大規模な臨床試験を開始した。09年8月に、「バルサルタンは降圧効果だけでなく、脳卒中予防の効果がある」と結論付けた論文を欧州心臓病学会誌に発表。11年3月と12年9月には関連論文を日本循環器学会誌で発表していた。
 だが同年10月、循環器学会に対し、専門家から論文のデータの不自然さを指摘する通報があり、学会は調査を開始した。PCとソフトが送られてきた時期は、この時期と符合する。
 臨床試験に関わった医師は「こちら(大学)でデータ解析をやったことにしようと考えたのではないか。この時に、白橋さんが改ざんしたんだと思った」と話す。一方で白橋容疑者側は「疑惑が発覚した後、大学側から『解析の検証をしたいので、統計ソフトを送ってほしい』と依頼があったので送った」と説明している。

2014年6月5日木曜日

クローズアップ2014:STAP研究、白紙 疑惑消えぬ幕引き 「調査逃れ」専門家は批判

毎日新聞 2014年06月05日 東京朝刊
STAP細胞論文を巡り、所属する理化学研究所から不正認定を受けても一貫して論文撤回に反対していた 小保方(おぼかた)晴子・研究ユニットリーダーが、同意に転じた。研究成果は白紙に戻る見通しになったものの、論文への疑惑は理研の調査終了後も相次ぎ浮 上している。理研や文部科学省は不正調査の継続に消極的だが、日本の科学の信頼回復に徹底調査が必要だとの声は根強い。【須田桃子、清水健二、根本毅、大場あい】
 「なぜ一方的に彼女に責任があるような報道がされているのか、理解しにくい」。小保方氏の代理人、三木秀夫弁護士は4日、STAP細胞論文に対する疑義が相次いでいることについて、記者団に語った。
 小保方氏の不服申し立てが退けられ、理研の調査委員会が活動を終えた5月8日以降も、理研内外の調査で新たな疑義が次々と報道され、2本の論文全体に疑義が拡大、STAP細胞の存在が大きく揺らいでいる。
 論文の著者の多くが所属する理研発生・再生科学総合研究センター(CDB、神戸市)の自己点検調査の過 程で判明したのが、少なくとも計6件の画像やグラフに関する疑義だ。その中の2件は、胎盤の細胞にも変化するとされるSTAP細胞の高い万能性を示す、重 要な実験の画像だった。論文1本の責任著者の若山照彦・山梨大教授が保管していた、STAP細胞由来の細胞の第三者機関による遺伝子解析では、すべての株 で、実験に使っていないはずのマウスの特徴が確認されたことも、毎日新聞の取材で分かった。
 新たな疑義が報じられるたび、理研は「報告は受けたが、調査を求める通報とはとらえていない」などと、 再調査には消極的な姿勢を示し続けた。一般に、撤回されることが決まった論文の調査は実施されないことが背景にある。外部識者による改革委員会(岸輝雄委 員長)は5月22日、理研に再調査を求めたが、理研は「著者間で論文撤回の動きがある」として調査は不要と判断したことを明らかにした。野依良治理事長は 「改革委の申し出は真摯(しんし)に受け止めなければいけない」と述べているものの、再調査が始まるかどうかは不透明だ。このため4日開かれた改革委で は、改めて新たな調査委員会を理研が設置して、調査を再開するよう求めた。
 理研の消極的な対応には、専門家からも批判の声が上がる。小原(こはら)雄治・日本分子生物学会研究倫 理委員長は「論文が撤回されるからといって理研は調査を終えてはならない。どのデータが間違っているのか、なぜ間違いが起きたのか、問題点を明らかにしな いと改革のしようがない。全て調べて明らかにするのが理研の責務」と話す。
 三木弁護士は4日、小保方氏が撤回に同意した理由について、「さまざまな精神的圧力を受け続ける中で、 同意せざるを得ない状況に追い込まれた」と説明したが、ある国立大教授は「撤回同意は不正の調査を逃れるためと思われても仕方ない」と話す。一方、不祥事 対応に詳しい宮野勉弁護士(第一東京弁護士会)は「小保方氏は、STAP細胞の有無と論文撤回は別問題だと頭の中で整理できたのではないか。これ以上の調 査を避けるための撤回というなら、もっと早く撤回していたと思う」と話す。

 ◇検証実験成否と特許、焦点

論文の撤回によって研究が白紙に戻ると、STAP細胞の存在が再び焦点となる。理研は4月から始めた検証実験を今後も続ける予定だ。文部科学省は「論文のさらなる調査をしなくても、(STAP細胞の有無は)検証実験で判断すればいい」と言い切る。
 検証実験は共著者の丹羽仁史・理研プロジェクトリーダーらが中心になり、論文の手順に従ってSTAP細胞を作製。それに成功すれば、マウスの受精卵に注入してSTAP細胞が全身に散らばるキメラマウスを作り、万能性を証明するとしている。来月にも中間報告を出す。
 ただし、失敗しても仮説が完全否定されるわけではなく「小保方氏がやればできる」と主張する余地が残 る。このため理研改革委の岸委員長は「『ある』という人(小保方氏)が、期間を限ってやって、できなければ『ない』ということにしないといけない」と、小 保方氏の実験参加を提案。理研も4日、小保方氏が検証チームに助言をしていることを認め、実験に直接携わる可能性もあると明かした。
 だが小保方氏については現在、懲戒委員会が処分を審査中だ。仮に解雇などになれば、その後も協力を続け られるのか、どのような身分で関与するのかなど不明な点も多い。「検証結果が出る前の処分は拙速」(私立大教授)との声が上がる一方、懲戒委の処分先延ば しにも批判はある。
 一方、特許の問題も残っている。理研と小保方氏が所属していた東京女子医大、米ハーバード大関連病院の 3機関は、昨年3月にSTAP細胞作製の国際特許を出願した。世界知的所有権機関(WIPO)日本事務所によると、論文が撤回されてもそれだけでは出願は 取り消されず、特許を与える各国の判断になるという。
 理研は「検証実験の結果を踏まえて判断したい」と、論文が撤回されても当面は放置する方針だ。特許に詳しい国立大教授は「本当にこの分野の研究を目指す人にとって、今の特許出願が邪魔な存在になる恐れがあり、科学の発展につながらない」と、理研の姿勢に懸念を示す。

2014年6月2日月曜日

医薬スキャンダル:バルサルタン・ショック 識者の話

医薬スキャンダル:バルサルタン・ショック 識者の話

毎日新聞 2014年06月02日 東京朝刊
バルサルタン臨床試験問題について語る加藤益弘・東京特任教授=東京都文京区で2014年5月27日、梅村直承撮影
バルサルタン臨床試験問題について語る加藤益弘・東京特任教授=東京都文京区で2014年5月27日、梅村直承撮影
インタビューに答える日本医学会利益相反委員長の曽根三郎・徳島大名誉教授=東京都千代田区で2014年5月26日、中村藍撮影
インタビューに答える日本医学会利益相反委員長の曽根三郎・徳島大名誉教授=東京都千代田区で2014年5月26日、中村藍撮影

 ◇臨床試験推進基金を−−加藤益弘・元アストラゼネカ会長、東大特任教授

今回の問題はノバルティスファーマと関係した研究者に限定した問題ではない。製薬企業、アカデミア(学 界)、医師の間に蓄積されたさまざまな問題が極端なケースとして浮かび上がったと言える。持ちつ持たれつだった関係をどう見直すか。大きなテーマだが、全 てのステークホルダー(利害関係者)が広範に議論しなければいけない。
 私が勤めた外資系製薬企業では、元々医師に奨学寄付金を支払い、自社の薬のみで臨床試験をしてもらうことは認められない状況だった。世界的な基準では、委託契約を交わした上で試験を実施するか、純粋な寄付かの二択しかない。
 薬は社会的な存在だ。特定企業への利益誘導と疑われず、臨床で本当に必要なデータを得るにはどうすれば よいか。製薬企業が協力して臨床試験を推進する基金を創設することを提案したい。製薬業界全体で奨学寄付金は300億円以上ある(2012年度)。これら を基金に拠出し、テーマに優先付けをして配分するイメージだ。利益的な観点から企業が投資しにくい分野を支援する道も開ける。
 欧州連合(EU)では政府と製薬業界の資金で、1社では対応できないが、各社共通のニーズがある基礎研究を進める取り組みがある。積極的に問題を解決する覚悟があれば実現可能だ。
 臨床試験を国際的基準(ICH−GCP)で実施する規制も必要だ。規制が強化されると臨床試験が進まな くなるという反論がある。行き過ぎた規制は避けるべきだが、質が担保されない研究に薬の処方が左右されることがあってはならない。患者の視点に立てば、数 が減ろうと質が高い試験が増えれば良い。
 業界が大きな批判にさらされている今、この機会に議論し、前に進めることに意味がある。

 ◇健全化図り信頼回復を−−曽根三郎・日本医学会利益相反委員長、徳島大名誉教授

産学連携による医薬品の研究・開発には企業から医師への金銭提供が問題となりやすい。私も参加した文部 科学省検討班が、利益相反に関する指針を2006年に初めて提案した。その趣旨は、臨床試験で関係企業から提供された金を全て開示し、疑義があれば説明責 任を果たすことだった。その後学会にも動きが広がったが、残念ながら医師個人の関心は低かった。欧米と比べ15年近く遅れた印象だが、バルサルタン疑惑に よってこの1年で急速に関心が高まった。
 一つの病気に同じ効き目の薬が多く市販されると、根拠に基づく医療(EBM)を重視する臨床の場では、 どう適正に使うべきかを探る大規模比較臨床試験が必要となる。国内ではこれを医師が企画する体裁で実施するが、今回の問題では、臨床試験に未熟な医師が明 確な医学的課題を持たずに行った点に最初の問題がある。企業は新薬の販売促進と結び付けて、不透明な形で多額の寄付金を提供しただけでなく、社員が大学の 肩書で統計解析にまで深く関わり、自社の薬に有利なEBMで暴利をむさぼった。防げなかったのは製薬業界全体の責任だ。
 医療機関側の責任も大きく、臨床試験に対する組織的な管理ができておらず、説明責任も果たせなかった。これは多くの医療機関が共通して抱える問題でもある。
 一連の疑惑は倫理の問題を超え、医師主導臨床試験の構造的な問題を浮き彫りにした。きっかけを作った良 識ある医師、関係学会、報道の役割は実に大きい。人材育成、公的な研究費支援、管理運営の体制の見直しにより、EBMに必要な大規模臨床試験をどうすれば 健全化できるかは喫緊の課題であり、その試みが国際的信頼回復にもつながるものと強調したい。

医薬スキャンダル:バルサルタン・ショック ツケ、国民医療費に ゆがんだ「薬とカネ」(その2止)

医薬スキャンダル:バルサルタン・ショック ツケ、国民医療費に ゆがんだ「薬とカネ」(その2止)

毎日新聞 2014年06月02日 東京朝刊

 ◇改ざんデータ、販促利用

ノ社は5大学の論文を計495種類の宣伝資材に使って売り上げを伸ばし、バルサルタンは累計1兆円を超すノ社の基幹製品となった。論文は学会の診療ガイドラインにも引用され、医師の処方に影響を与えた。国民はこれを保険料の形で間接的に負担してきた。
 「データ操作された論文に基づく広告は結果的に誇大広告に該当する恐れがある」。厚労省の検討委は2013年9月末にまとめた中間報告でこう指摘した。
 <D これを受け、厚生労働省は今年1月9日に薬事法違反容疑でノ社を東京地検に刑事告発する。>
 臨床試験と広告とは密接に連動していた。
 05年11月、米国南部ダラスにある高級ホテルで、バルサルタンの臨床試験の会合が開かれた。ある関係 者は「マーケティング担当のノバルティスファーマ社員の姿もあった」と証言する。慈恵医大の試験の途中経過が報告され、会合が終わるとノ社の広告記事に載 せる座談会が行われたという。なぜ米国なのか。この関係者が説明する。「米心臓協会の学会開催に合わせた。先生(医師)方が一斉に集う学会の場を利用して 広告向けの座談会を開くのは慣習のようなものだ」
 「バルサルタンは他の降圧剤と比べ、脳卒中を発症した人が4割少なかった」という慈恵医大の成果が、外 部に初めて公表されるのは06年9月。スペインの国際学会の場でだった。しかし、医療専門誌「日経メディカル」誌上では、この学会の約2カ月前から成果を 「予告」するノ社の広告が連続して掲載されていた。
 論文となって発表されるのはさらに遅く、07年4月の英医学誌ランセット誌上だ。慈恵医大によると、この論文に使われた図表類を作成したのは、統計解析を担った社員だという。
 ランセットは世界で最も権威ある医学誌の一つだ。当時ノ社に勤めていた男性は「降圧剤を巡る業界の競争は激しい。一流誌ランセットの論文があったから他社をリードできた」と言う。
 だがそう単純ではない。バルサルタンの広告代理業務を担ったのは、ランセットを発行する出版社の日本支社だった。ここには隠れた利権が存在していた。
 論文の著作権は出版社にある。このためノ社に限らず、製薬会社は自社の薬に有利な臨床試験の論文が出ると、医師に配るため論文の別刷りを大量に発注する。製薬会社がスポンサーになった臨床試験の論文は出版社にとって「金づる」というわけだ。
 ノ社はバルサルタン論文の別刷りの購入部数を明かさないが、英国では1本の医学論文の別刷りが出版社に 2億円以上の収入をもたらした事例も報告されている。製薬72社の公表資料を毎日新聞が集計したところ、論文の別刷りなど医師に渡す「医学・薬学の関連文 献」に、12年度だけで200億円以上が製薬会社から支出されていた。
……………………………………………………
 ■医薬品広告の規制
 バルサルタン疑惑の厚生労働省の有識者検討委員会は今年3月末「欧米の事例も参考にしつつ、広告の適正 化策を検討すべきだ」と指摘した。これを受けて厚労省は、医師の処方が必要ない一般用も対象に、医薬品広告の規制見直しに向けた研究班を作り、検討に着手 している。一部学会では、幹部に対して特定の製品の宣伝につながる講演会などの自粛を求める動きも出ている。
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 ◇ノバルティス社、大きな代償−−日本社会の怒り買い

今年4月2日。ノ社スイス本社のデビッド・エプスタイン社長は、東京大医科学研究所の一室で上昌広特任 教授と向き合っていた。医師でもある上氏はメディアを通じて一連の疑惑を批判し続けている。面会を希望したのはノ社側だった。「データ操作された論文で得 た不当な利益をどう日本国民に返すのか。(決めたら)社会に伝えるべきだ」。上氏の提案に、エプスタイン社長は「できるものならぜひやりたい」と応じたと いう。
 上氏は「ウミを出し切らなければならない、と伝えた。相当困っている印象だった」。
 ノ社は昨年来、日本社会の怒りを過小評価し、自ら傷口を広げてきたように見える。13年6月3日付で医 療機関などに向け配った文書の宛先は「お得意先様各位」。「日本の臨床研究の信用性を揺るがしかねない」と謝罪しながらも、有効性や安全性には問題がない ことを強調する内容だった。都内のある医師は「当事者意識が感じられない」とあきれた。医療現場からの不信は薬の処方中止となって表れた。
 患者への「おわび」を表明したのは7月24日。疑惑の表面化から約4カ月がたっていた。ノ社の電話相談窓口には、1週間で7万2000件以上の電話が殺到。以降も毎月100件を超す問い合わせが続いているという。
 13年度のバルサルタンの売り上げは前年比16・8%減の約881億円(医療コンサルタントIMS調べ)。期間ごとの前年比は▽13年4〜6月5%減▽7〜9月15・7%減▽10〜12月22%減▽14年1〜3月25・1%減−−と減収幅は拡大してきた。
 さらに今年1月、「臨床試験に社員が関与してはならない」との新たな社内ルールを、白血病治療薬の臨床試験を巡って社員が無視していたことが発覚し、再び謝罪に追い込まれた。
 <E 世界の製薬業界でトップを走るノバルティス。だが日本での信用は地に落ちている。上特任教授との 面会の翌日、エプスタイン社長は、日本法人幹部3人の更迭を発表した。新役員に日本人の名前は無い。エプスタイン社長は「日本人社員は医師を優先しがち。 海外では患者を優先する傾向がある。日本法人のカルチャーを変えなければいけない」と述べた。>
 バルサルタン臨床試験疑惑は、国民の目の届かぬところで「薬とカネ」のゆがんだ構造が作られ、国民の医 療費にはね返っていることを白日の下にさらし、対策の歯車を初めて大きく回した。今、医療・製薬業界では「第二、第三のノバルティスはどこか」とうわささ れる。既にいくつかの薬の研究を巡って問題が表面化し、会社や研究機関が調査を始めている。

医薬スキャンダル:バルサルタン・ショック ツケ、国民医療費に ゆがんだ「薬とカネ」(その1)

医薬スキャンダル:バルサルタン・ショック ツケ、国民医療費に ゆがんだ「薬とカネ」(その1)

毎日新聞 2014年06月02日 東京朝刊
バルサルタン臨床試験疑惑をめぐる構図と背景にある主な問題点
バルサルタン臨床試験疑惑をめぐる構図と背景にある主な問題点
医学界と製薬業界への信頼を失墜させたバルサルタン臨床試験疑惑は、製薬会社ノバルティスファーマが試 験への不透明な関与を認めて謝罪してから1年がたった。この間、臨床試験をした5大学のうち4大学がデータ操作の可能性を認めたことで疑惑はさらに深ま り、広がった。国や学界、製薬業界は、再発防止のために制度を抜本的に見直した。日本の医薬研究史に残るであろう不祥事はいかにして表面化したのか。どこ にどんな問題が潜んでいたのか。約2年間にわたり「薬とカネ」の取材を続けてきた記者が報告する。【河内敏康、八田浩輔】

 ◇「医学村」論文への疑問放置

降圧剤バルサルタン(商品名ディオバン)を使って実施した臨床試験の論文は、東京慈恵会医大、滋賀医 大、京都府立医大、千葉大、名古屋大の順に発表され、程度の差こそあれ、どれもバルサルタンがよい薬だと結論付けていた。その陰で、慈恵医大が2007年 に論文を世に出した直後から、少なくない専門家が不信を表明していたが、疑問は放置されていた。
 09年10月、日本高血圧学会が臨床試験の評価をテーマにシンポジウムを開催していた。東京都健康長寿 医療センターの桑島巌(いわお)医師は壇上で「医師がデータを操作できる手法を使い、あり得ない結果を導いている」と、府立医大などの論文を鋭く批判し た。すると、試験責任者の松原弘明教授(当時)が客席から立ち上がり「研究者仲間のチェックを受けている。なぜ文句を付けるんだ」と激高した。
 桑島医師の訴えを会場の多くの医師が聞いていた。だが一つの意見に過ぎないと受け止められ、調査されることはなかった。
 その2年半後の12年4月。今度は京都大病院の由井芳樹医師がバルサルタンの臨床試験論文に批判の声を 上げる。「血圧のデータの統計的な傾向が、同様の試験をした海外の論文と異なっていて、おかしい」とする旨の論文を発表したのだった。「不正」と明示こそ していないが、研究者が読めば、不正を疑っていることが分かる厳しい内容だった。
 ノバルティスファーマの看板商品と、それを後押しする有名大学による大規模臨床試験。そこに再び持ち上がった疑念。記者は複数の統計学者らに意見を求めた。だが「確かに不自然だが、100%あり得ないとまでは言い切れない」と慎重な意見が多かった。
 <A 日本循環器学会は12年末、論文のデータのでたらめさに気付いた興梠(こうろ)貴英医師からの「通報」を受けて、府立医大の論文撤回に踏み切った。>
 だが、その姿勢は極めて慎重だった。撤回理由を「データ解析に多くの深刻な誤りがあるため」としか公表せず、学会は「誤り」の詳細を明かそうとしなかった。
 このころ、興梠医師は日本高血圧学会の評議員の知人から「府立医大の松原先生は高血圧学会内に友人が多く、影響力が大きい。誰から攻撃を食らうかわからない。論文にして公表するのはやめろ」とアドバイスされたという。
 その高血圧学会は、心臓や血管などの循環器分野の中で特に高血圧をテーマにする専門家集団だ。現場の医 師に向けた診療ガイドラインで慈恵医大の試験論文を引用していた。由井医師の批判論文が出た3カ月後には、医療専門誌のノ社の記事広告に学会幹部らが登 場。医師同士の座談会を載せており、幹部らはその中で由井医師への反論を語り「疑念は払拭(ふっしょく)された」と強調した。
 研究者は、学術誌で論文を発表したり学会発表したりして、意見が異なる研究者と論争する。科学を進展さ せるためのこのシステムは、不正を暴くことを目的にしていない。バルサルタンの臨床試験を巡る疑問も何度か論争の対象になったものの、それは医学コミュニ ティーの内側にとどまり、6年が経過した。
 それでも、ともかく事態の歯車を回した循環器学会に比べ高血圧学会は対照的にみえる。日本医学会のある 幹部は「高血圧学会幹部は、ノ社の広告に登場してあの薬をさんざん薦めてきたからね……」と冷ややかだ。循環器学会の関係者は「当方の幹部は広告に加わら ず、ノ社に取り込まれていなかったことが大きかった」と振り返る。
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 ■データ不正防止への取り組み
 国から医薬品としての承認を得るための「治験」には薬事法に基づく厳しい規制がある。一方、市販後の臨 床試験には強制力の無い指針しか無かったが、国はデータ操作を防ぐため、今年5月にこの指針の改定案をまとめた。カルテと論文に使う解析用データとの食い 違いを発見するため、試験の途中で確認する「モニタリング」と試験終了時に調べる「監査」を導入する。時間が経過してからでも調べられるよう、データの長 期保存も義務付ける。法の網をかぶせて、罰則を設けるかについても議論を始めている。
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 ◇臨床試験、製薬会社頼み

13年2月にノ社社長の定例記者会見が東京で開かれた。直前に、毎日新聞などが府立医大チームの論文が 撤回されたと報じていた。「ノバルティスは論文を宣伝に使ってきたが、試験に関わっていないのか」との質問に、三谷宏幸社長(当時)はこう言った。「あの 論文が宣伝に使えなくなったのは残念だ。ただ、我々は試験のやり方などに直接関与できない。社員の試験への関与も全くゼロだ」
 しかし「統計解析をしたのはノ社の社員だ」とのうわさが、実名と共に医療関係者の間に広まりつつあった。ただ、論文にある研究者たちの肩書欄のどこにも「ノバルティスファーマ」は見当たらず、統計解析の担当者の所属は「大阪市立大」と記載されている。
 3月、記者は三谷社長に単独取材する機会を得た。場所はノ社本社の一室。記者がうわさされる人物の名前 を挙げると、三谷社長は「彼は会社の人ですよ。統計のことをよく知っていて、日本の財産だ」とよどみなく答えた。ではなぜ論文に社名が出ていないのか。 「それは大阪市大の非常勤講師を兼任しているからです。専門家の立場から、どんな統計方法がいいかについてアドバイスしたのです」。そう説明する姿は誇ら しげにさえ見えた。
 臨床試験をする医師を製薬社員が手足のようになってサポートすることは、程度の差こそあれ横行している とささやかれるが、表に出ることはなかった。ある製薬会社の営業担当は言う。「手伝わせてもらえるのは研究者からの信頼が厚い証拠。社内での評価にもつな がる。自社製品のよい試験結果が出れば薬の宣伝に使える」。ただ、製薬会社の関与が分かれば、結果が偏っていると疑われかねない。
 ノ社から府立医大チームへの「カネ」にも疑問があった。近年、外部から資金援助を受けた研究は後から疑 惑を招かぬよう、論文にそのことを明記するルールになっている。府立医大の論文に資金提供を受けたとの記載はないのに、記者が情報公開請求によって入手し た府立医大の過去5年分の資料によると、ノ社から松原教授の研究室へ年500万〜4500万円超、総額1億円を超える「奨学寄付金」が渡っていた。
 会社組織である以上、現場の独断で支出できるはずはなく、組織の意思があったはずだ。ノ社のある元営業社員は「尋常ではない金額だ。自分の経験では、一つの研究室に年100万円を出すのも難しかったのに」と驚きを隠さなかった。
 三谷社長は取材に対して奨学寄付金を支払ったと認めたが、「寄付は大学を通じてであり、試験を行う研究室に直接ではない」と、浄財であることを強調した。この説明はウソではない。だが、奨学寄付金は提供者が渡したい研究室を大学に対して指定する「ひも付き」にできる。
 統計解析という臨床試験の根幹に関わる部分に社員を参加させながら、そのことを明かさず、「医師からよ い薬と証明された」と宣伝することが許されるのか。府立医大チームはノ社からの「寄付」を論文で隠してきた。肝心の科学性は学会誌から「データ解析に重大 な問題がある」と否定されている。
 <B 毎日新聞は13年3月28日朝刊で「製薬社員も名連ね」「1億円の寄付金/製品のPRに利用」の見出しと共にこの問題を報じた。府立医大チームの論文撤回はこれを境に「薬とカネの疑惑」となった。>
 これ以降、慈恵医大、滋賀医大、千葉大と次々に調査に乗り出すことを表明していく。追い詰められたノ社 は5月22日「社員が加わっていたことが臨床試験に疑念を生じさせた。不適切だった」と非があることを初めて認めた。だが記者会見はせず、調査結果の要旨 を自社のホームページに掲載しただけだった。
 その2日後。日本医学会が異例の記者会見を開く。「企業が関与したのに、それが隠されていたとしたら、 医学研究倫理だけでなく、社会倫理からおかしい。許し難い」。強烈な批判だった。日本医学会は約120の国内の医学系学会を束ねる存在だ。さらに5日後、 日本医師会は「疑惑が一般紙等で報道されている。医療への信頼を失墜しかねない重要な問題だ」と談話を発表。各大学、学会に自浄作用を示すよう求めた。
 ノ社はそれでも「大学の了解がなければ教えられない」と、5大学への寄付金の金額を示そうとしなかっ た。明らかになるのは8月。疑惑を受けて設置された厚生労働省の有識者検討委員会が強く報告を求めたからだった。総額は11億3290万円に上り、府立医 大には試験開始からすべての論文が発表されるまでの03〜12年に、3億8170万円が渡っていた。ノ社は「寄付金が臨床試験に使われることを意図してい た」と説明した。浄財ではなかった。
 また、後の大阪市大の調査で、「非常勤講師」の肩書を使っていた社員が在籍11年間に講義したのは、院生向けの1回だけだったことが判明する。社員は「各大学の研究者やノ社にとって都合がよかったと思う。自分も便利だと思った」と述べたという。
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 ■製薬会社と臨床試験
 国立大病院長会議は2013年9月、「データ解析は企業から独立して行う体制が必要」と提言した。今年 3月には日本学術会議の分科会が、大規模臨床試験の実施には、業界からの寄付金をプールし、第三者組織が公募で選んだ医師に配分することを政府などに提 言。同4月、日本製薬工業協会が、▽臨床試験の中立性が疑われるような支援を社員がしない▽自社の薬を対象とした臨床試験への奨学寄付金の提供を禁止する −−と加盟社に通知した。毎日新聞が集計した製薬72社の奨学寄付金(12年度)は、346億円。臨床試験は国内で年5000件近く行われている。
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 ◇学内調査の限界あらわ

<C 「大変な迷惑、心配をかけたことをおわび申し上げます」「明らかなデータ操作があったが、だれが したのかは特定できなかった」。13年7月11日、京都府立医大の吉川敏一学長らは記者会見を開き、深々と頭を下げた。不信の目が注がれてきた論文に不正 があると、初めて大学が認めた瞬間だった。しかし会場を埋めた記者は納得できない。「もっと詳しく調べられないのか」「大学は何をしていたのか」。質問は 2時間続いた。>
 この発表までの過程で重要な役割を果たした文書がある。日付は13年2月15日。「報告書を拝見します と、元データに踏み込んで調査がなされたのか不明です」。日本循環器学会の永井良三代表理事(当時、自治医大学長)と下川宏明編集委員長(東北大教授)の 連名で、府立医大の吉川学長に宛てたものだ。文書は続く。「本件の調査権は貴学にありますので、詳細かつ公正な調査を実施していただきたい」
 学会は12年末に府立医大の松原教授らの論文を撤回すると、大学側に調査を求めていた。すると大学は 13年1月31日、「『故意の捏造(ねつぞう)』とは認められなかった」と報告してきた。先の文書はこれに対する学会側の返答だった。学会は、データの誤 りの数や程度のひどさから「医学論文として成り立たない」と判断しており、こんな報告を受け入れるわけにはいかなかった。「ミスの割には結論がバルサルタ ン優位に偏り過ぎ、データ解析に社員の関与の可能性が指摘されていた」(学会幹部)
 内幕を府立医大関係者が補足する。「内部調査はとても公平性があるものとは言えず、『単純ミス』という 当事者の主張をうのみにしただけ。循環器学会が怒るのも当然で、大ごとにしたくないための対応と疑われても仕方がなかった」。大学が内部調査を命じた3教 授のうち2人は松原教授と共同研究をした間柄だった。
 「外圧」で本格調査を余儀なくされた府立医大の迷走は続く。当初、調査の責任者に任命されたのは、ノ社 が府立医大に開設する寄付講座の教授だった。しかし、ノ社が5月末に臨床試験に社員が関与していたと認め「会社ぐるみ」との批判が高まると、この教授を含 む3人がノ社との金銭的なつながりを理由に調査メンバーから降りることになった。
 7月30日には慈恵医大が「データ操作があった」と記者会見で発表し、騒ぎは拡大する。ただ、操作した人物にたどり着けない。文部科学省は研究者に不正の疑いが生じた場合は、所属組織に公正な調査をするよう求めているが、任意調査の限界は明らかだった。
 田村憲久・厚労相は疑惑の真相解明を大臣直轄の検討委員会に託した。委員には元検事もいたが、8月に発 足してすぐ壁に突き当たる。大学同様、任意調査の限界だ。「データ操作した」と認める者はおらず、委員から「犯人捜しは無理だ」との声が相次いだ。結局、 議論の多くは再発防止策の検討に割かれた。委員で薬害エイズ被害者の花井十伍さんは「調査に強制力がなく、無力感を感じた」と吐露する。
 問題となった5大学のうち、府立医大、慈恵医大、滋賀医大、千葉大の4大学がデータ操作の可能性を認め ることになるが、「誰が何の意図で操作したのか」という真相は見えなかった。千葉大に至っては、内部調査だけでデータ操作を否定する中間報告を13年末に 公表したが、第三者機関の検証を経て4カ月後に結論を覆す失態を演じた。千葉大幹部は「初めから第三者機関に依頼すればよかった」と述べ、頭を下げた。
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 ■研究不正への対応
 文部科学省の作業部会は2013年9月、「研究公正局」など調査権限を持つ公的な第三者機関の設置に向 けた検討が必要だと国に求めた。日本学術会議も、研究機関の不正対応に助言や勧告できる第三者機関を科学界の中に作る必要性を指摘している。文科省は公的 研究費の不正使用に関する指針を改定し、今年度から運用を始めている。ケースによっては不正が発覚した研究機関の研究費を削減するなど、組織の管理責任を 明確化した。

2014年4月25日金曜日

大阪府立大院生が論文データを捏造 理想的な数値1千個

大阪府立大は27日、大学院工学研究科の男子大学院生(修士2年)が、応用物理学会英文誌に発表した半導体に関する論文のデータを捏造(ねつぞう) したと発表した。同学会に謝罪するとともに、論文の取り下げと、学会の奨励賞の返上を申請した。学内に調査委員会を設置し、担当教授らの指導など研究体制 のあり方などについても調べる。
 論文は、同学会の06年12月15日付の英文誌に掲載された薄膜トランジスタについての研究。論文の中核をなす実験は、同院生が単独で実施し、所属研究 室の藤村紀文教授らと共著論文として投稿していた。また、院生は05年9月の同学会で前段となる論文を発表し、奨励賞を受賞していた。
 問題となった論文は、チタン酸鉛などを使い、大電流にも耐えられるトランジスタの開発をめざしたもの。
 今月21日に府立大で開かれた修士論文発表会で院生が同じ発表をしたところ、トランジスタの特性を示す二つのグラフのデータのとり方の不自然さに助手らが気づいた。院生がパソコンやノートなどに残したデータを調べると、実験をした証拠がないことがわかった。
 院生に問いただすと、「実験はせず、グラフは自分でつくった」と捏造を認めた。
 藤村教授によると、院生は、理想的な特性を表す数値を約1000個捏造し、入力していた。「実験は彼に任せていた。きれいなデータで全く疑わなかった。管理者としての私の責任」と語った。
 奥野武俊・工学研究科長は「あってはならないことが起き、申し訳ない。調査委員会を設置し、処分や体制づくりを検討する」と話している。

朝日新聞 2007.2.27 写し

大阪府立大の調査概要トップ

2014年4月20日日曜日

慈恵医大の内科医、科研費不正申請か 研究業績を粉飾?

 東京慈恵会医科大の内科医が、国の科学研究費補助金科研費)を申請する際、研究業績を偽って申告していた疑いがあることがわかった。大学は調査委員会を設けて事実関係を調べている。
 文部科学省などによると、科研費の 申請書で、研究業績として論文を記載する部分に、他人の論文を自らが執筆に加わった論文だと記載していた。名前の英文表記が同じ研究者の論文を自分の業績 のように見せかけ、執筆論文を上乗せしていた。例えば「朝日太郎」だとすると、「T.Asahi」と記された「朝日敏男」や「朝日哲夫」といった名前の研 究者の論文を自分の論文としていた。同様の手法を使っていた研究者が同大に複数いるとみられるという。
 慈恵医大によると、学内でうわさとなり、昨年12月に調査委員会を設置して、詳細を調べ始めた。
 科研費は、国が独創的・先駆的な研究を公募し、採択された課題に研究費を助成する制度。2013年度の予算は2381億円。慈恵医大には147件2億7885万円が支給されている。
 文科省学術研究助成課は「大学から3月に調査について連絡を受けた。当該医師は科研費の使用を一時的に停止していると聞いている」としている。
 慈恵医大広報推進室は「科研費申請のプロセスでルールに沿っていない事例があることが判明した。調査委の報告がまとまるまで詳細は答えられない」としている。(西川迅)

朝日新聞 2014.4.20

写し

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正確に記載してください。

2014年3月24日月曜日

科学の世界でなぜ研究不正? 発表か死か…はやる成果「2番じゃダメ」

  学術論文に使う写真の捏造(ねつぞう)やデータ改竄(かいざん)-。製薬会社ノバルティスファーマの治療薬をめぐるデータ改竄事件をはじめ、研究現場での不正が次々と明るみに出ている。理化学研究所などのチームが発表したSTAP(スタップ)細胞の論文にもさまざまな疑念が抱かれ、日本の科学技術への信頼が揺らぎかねない状況だ。「真理」を追究すべき科学の世界で、不正やずさんな行為がなぜ横行してしまうのだろうか。(伊藤鉄平、道丸摩耶)

語らぬ動機

 「不正については大学の調査が続いており、コメントできない」。過去18年間にわたる論文で、画像の捏造などが発覚した東大の元研究員は、産経新聞の取材に重く口を閉ざした。
 東大が昨年12月に発表した中間報告によると、この元研究員が在籍した分子細胞生物学研究所のチームは平成8年以降、骨ができる仕組みやホルモンが作用する仕組みに関する論文で、画像編集ソフトを使って写真を合成したり、過去の研究で使った画像を使い回したりしていた。
 その数は実に210カ所。43本の論文が撤回されるべきだと指摘されたが、調査では不正を行った研究者の特定には至らず、動機も解明されないままだ。
 
  なぜ不正が起きるのか。「博士漂流時代」などの著書がある近畿大医学部の榎木英介講師(42)は「あくまで一般論だが…」と前置きした上で、「不正の背景には、国際的な競争の激しさがある」と指摘する。
発表か死か

 榎木氏によると、世界の研究者と成果を競う基礎研究の世界には「Publish or Perish(発表か死か)」との格言がある。著名な科学誌に次々と論文を出し、「名声」を勝ち取らなければ研究者として埋没する。国からの研究費も減り、さらに研究が進まなくなる“負の連鎖”に陥るのだという。
 しかも「研究成果は『2番じゃダメ』。一番乗りでないと意味がない」(榎木氏)。論文はその確実性を増すため、第三者が論文内容を検証する「追試」を行うケースもあるが、「待っていると海外の研究者に出し抜かれる」との焦りから、未熟なままの論文が発表されることも少なくないという。
 文部科学省によると、研究者に助成する平成25年度の科学研究費(科研費)は計2400億円。同年度は10月までに研究者から9万7764件の新規申請があったが、実際に研究費が出されたのは2万6355件とわずか27%にすぎない。
研究費の争奪戦は激しく、榎木氏は「ばれなければいいとデータをいじったり、やってないことをやったとみせかけたりする不正が生まれる」と指摘する。
企業と癒着

 一方、ノバルティスファーマ社の高血圧治療薬「ディオバン」を使った京都府立医大などの臨床研究では、論文に使われた解析データが製薬会社の都合のいいように操作されていた。
 ノ社は大学側に計11億円超の奨学寄付金を拠出しており、榎木氏は「製薬会社は薬を売るため都合の良い研究にカネを出す。それが癒着や不正を生む温床となっている」と指摘する。
 製薬会社の“丸抱え”の研究では「自社商品にとって有利な結果」が過度に期待されるあまり、不正が起きやすいというわけだ。
 不正を防ぐにはどうすべきなのか。東京大学医科学研究所の上(かみ)昌広特任教授(45)は「真相を究明し、担当者を処分することしかない」と話す。
 ただ、上氏は「現在は、内部調査のみで第三者調査を行わなかったり、調査を長引かせてほとぼりが冷めるのを待ったりする甘い対応が目立つ」と指摘。内部の不祥事を隠蔽(いんぺい)、矮小(わいしょう)化するような研究機関側の対応が「不正をむしろ助長し、信用を失墜させている」という。
 
低いモラル…研究費で家族旅行も

 国から研究費の助成を受ける大学などの研究機関では、流用や不適切な会計処理も後を絶たない。
 文部科学省によると、架空取引で業者に研究費を管理させる「預け金」や、カラ出張などで裏金化した「プール金」などの公的研究費の不正使用は平成13~23年度に46機関で計約3億6100万円に上った。
 大半が年度末に予算を使い切るための不正処理で、後に高額な顕微鏡やパソコンを購入したり、学会への出張費などに使っていた。
 また、私的流用が確認されたケースもあり、消耗品を転売して着服したり、家族旅行の資金や自宅のエアコン購入費に充てたりしていた。
 流用をめぐっては、東大政策ビジョン研究センターの教授が、データベース作成業務などをIT関連会社に発注したように装い、計約2180万円を私的流用したとして、昨年8月に詐欺罪で起訴されている。

産経新聞

2014.3.23

その1その2その3その4図1図2

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これと同じことを昨年のバルサルタン事件の時も報じられました。全然改善していないということです。必ず改善を。

2014年3月23日日曜日

元教授、論文撤回を呼びかけ アルツハイマー研究

アルツハイマー病研究の国家プロジェクトJ―ADNI(アドニ)」の臨床研究データに基づいて米国学会誌で発表した論文について、筆者の1人である杉下守弘元東大教授が20日、データの14%に改ざんを含む不適切な例があったとして、共同筆者12人に論文撤回をメールで呼びかけた。STAP細胞の論文撤回問題で揺らぐ日本の先端医療研究への信頼がさらに失われる可能性がある。
 杉下氏はJ―ADNIにデータ検証の責任者として参画する一方、認知症研究の国内第一人者で代表研究者を務める岩坪威東大教授ら12人と共同でアルツハイマー病患者の脳の特徴を探るために行うPET(陽電子放射断層撮影)に関する論文を2013年8月、米国の神経放射線学会誌に発表していた。
 杉下氏が論文発表後に新たな資料を入手し検証した結果、論文に使ったデータ274例中、14%の39例が①記憶を試す面談検査で国際的手順に合わせる目的で検査時間を改ざんした②被験者の同意を得ていなかった③被験者が基準外の年齢だった――など不適切だったことが判明したという。
 杉下氏は「使えないデータが1割以上あれば論文として価値がなく、取り下げざるを得ない」と判断。今月17日にJ―ADNIの改ざん疑惑を調べている東大の調査委員会に論文撤回の必要性を訴え、20日に共同筆者12人にメールで「論文を取り下げることを皆様に提案する」と呼びかけた。
 さらに自らが筆頭筆者を務めた記憶力テストに関する論文も「不正データが含まれていることが明らかになった」とし、撤回する意向を共同筆者に伝えた。
 朝日新聞が改ざん疑惑を1月に報じた際、J―ADNIの主要メンバーは「このデータを使った論文はまだ発表されておらず、改ざんとは考えていない」と反論し、疑惑解明に消極的だった。別のメンバーは「疑惑発覚後、筆者たちは論文取り下げを恐れて何もしてこなかった。今後は取り下げを検討せざるを得なくなる」と指摘する。
 岩坪教授と東大は「調査中で答えられない」、厚生労働省は「不正が明らかになれば対応する」としている。厚労省は杉下氏の内部告発メールを無断で岩坪氏に転送するなど疑惑解明に後ろ向きだ。(渡辺周、青木美希)
     ◇
 〈J―ADNI〉 アルツハイマー病の早期治療や予防を目指し、記憶力低下と脳画像の関係などを調べる。07年以降、38施設が参加し、国と製薬会社が計約33億円を投入。昨年にJ―ADNI2も始動した。今年1月にデータ改ざん疑惑が朝日新聞報道で発覚。杉下氏の内部告発メールを厚生労働省が無断で代表研究者に転送したことも問題化した。

朝日新聞

2014年3月21日

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公正な対応が必要です。

名古屋外大の学科長、論文盗用か 17ページほぼ丸写し

名古屋外国語大学(愛知県日進市)は24日、現代国際学部国際ビジネス学科長の井戸一元(かずもと)教授(58)=会計学=が2012年に発表した論文に盗用の疑いがあるとして、学内に調査委員会を設置した。井戸教授は盗用を認めているという。
 名古屋外大によると、問題の論文は、井戸教授が2012年に学内の研究誌に発表した「日本の財務報告と会計規制をめぐる課題と解決策」。A4判全28ページのうち17ページが、高知工科大学(高知県香美市)の村瀬儀祐教授の論文をほぼ丸写ししていたという。村瀬教授から今年2月上旬に指摘を受けて発覚した。
 名古屋外大の高橋誠事務局長は「あってはならないこと。特に学科長という指導的立場にあった井戸教授が盗用したことを重く見ている」と話す。井戸教授の過去の論文なども調べて年度内に結果を出し、処分を決める方針だ。
 大学の聞き取りに対して井戸教授は「公務と教育、研究のはざまにあって、業績に対する焦りがあった」と話しているという。

朝日新聞

2014年2月24日

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これはいけません。

2014年3月18日火曜日

STAP研究成果をホームページから削除

理研発生・再生科学総合研究センターは17日、STAP細胞に関する研究成果を一般向けに紹介したホームページの記事(1月30日付)を削除した。
 削除理由は「論文への疑義に関する調査が行われていることに(かんが)み、取り下げました」としている。

(2014年3月18日00時42分  読売新聞)
 
 
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STAP細胞はおそらく存在しないのでしょう。
 

バルサルタン:臨床試験疑惑 滋賀医大2教員処分 「疑われる論文作成」 /滋賀

毎日新聞 2014年03月15日 地方版

 降圧剤バルサルタン(商品名ディオバン)の臨床試験疑惑で、滋賀医大の研究論文作成に関わった2教員が学内で処分されていたことが、大学への取材で分かった。「信頼性が大きく疑われる論文を作成、公表したことにより大学の名誉と信用を深く傷つけたため」としている。
 処分は先月28日付。筆頭著者の男性准教授が訓告、共同著者の男性教授が文書厳重注意で、ともに懲戒処分には当たらない。大学は公表していなかった。
 問題の論文は掲載した米国糖尿病学会誌から先月撤回された。研究責任者を務めた柏木厚典・付属病院長(副学長)=当時=は先月14日に引責辞職している。【千葉紀和】

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処分が軽すぎます。

2014年2月17日月曜日

STAP細胞論文に「不自然な画像」 理研が調査

STAP細胞論文に「不自然な画像」 理研が調査

2014年2月17日10時29分


新しい万能細胞「STAP(スタップ)細胞」を見つけたと理化学研究所が英科学誌で発表した論文について、使われた画像データの一部に不自然な点があるとの指摘がインターネット上で寄せられ、理研が調査を始めた。ただ、論文の成果そのものはゆるがないとしている。
 論文は、マウスの体の細胞を酸性の液体に浸しただけで、どんな細胞にも変化できるSTAP細胞を作れた、とするもの。理研の小保方晴子ユニットリーダーが中心になった研究で、先月末に英科学誌ネイチャーに論文が掲載された。
 ネットのブログでは、別の状況で撮られたはずの二つの画像によく似た点があるほか、画像に手を加えたことを疑わせる不自然な線があると指摘された。
 理研は13日から調査を開始。外部にも複数の専門家に調査を頼んだ。小保方さんからも必要に応じて事情を聴くという。

朝日新聞

一部の写し

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今後を注目します。

2014年2月10日月曜日

製薬会社と医学部の癒着 現役国立大学教授が実名で現状告発

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製薬会社と医学部の癒着 現役国立大学教授が実名で現状告発

NEWS ポストセブン 2月10日(月)7時6分配信

 日本の医薬業界が、製薬大手「ノバルティスファーマ」の薬に関わるデータ改竄事件で揺れている。同社は、血圧を下げる降圧剤「バルサルタン(商品名・ ディオバン)」を販売する際、改竄したデータに基づき、「血圧だけでなく脳卒中、狭心症にも効果がある」として販売した事件だ。
 
 こうした事件が発生する背景には、製薬会社が大学医学部の教授を“籠絡”すれば、いとも簡単に現場の医師と患者を騙せ、巨額の利益を得られるという構図がある。今回、現役の国立大学教授が実名で、あまりに生々しい「製薬会社と医学部」の癒着の現場を告発した──。
 
●レポート/伊藤博敏(ジャーナリスト)

 * * *
「大学の研究者が製薬会社にとって都合がいいように研究データを改竄し、それを根拠に執筆された不正論文は、この大学にもヤマのようにあります」

 不正の証拠となる写真や論文を示しながら、岡山大学の森山芳則・薬学部長はこう言い切った。

 岡山大の森山氏と榎本秀一・副薬学部長が本誌に告発した内容は、昨春から医薬業界を揺るがせているノバルティス事件が、日本の医学部において氷山の一角でしかないことを示す重大な証言である。

 昨年12月10日、森山氏は岡山大学長宛てに「告発書」を提出した。大学の規則「研究活動に係る不正行為への対応に関する規定第4条」に基づく、公式の 内部告発である。内容は、大学執行部を含む医学部の5人の有力教授と准教授、そしてその研究室スタッフの不正行為を暴くものだ。

「発端は、大学院生の博士論文の不正に気づいたことでした。ある教授の研究室で、実際に実験を行なっていないのに、研究論文を提出している院生が数人い た。論文内容を質問しても、ろくに答えられず、あまりに低レベル。おかしいと思い調べると、他人の論文をコピーして繋ぎ合わせただけだった。そして問題 は、不正論文の手引きをしたのはその担当教授だったということです。すぐに私たちはその実態を学長に訴えた。

 しかし、学長は、『この件については騒がないでほしい』という。さらには『こんなこと(不正の暴露)をやったら、ウチの大学はたいへんなことになる』とも話しました。そこで、不正が横行する容易ならざる事態に、大学が陥っていることに気づきました」(森山氏)

 森山氏は榎本氏らとともに、岡山大学医学部が発表してきた論文の精査にとりかかった。学生の論文から有名教授の研究発表までその数は200本以上にのぼる。そこで、とんでもない事態になっていることが判明する。榎本氏が続ける。

「この数年の論文を調べただけで、出るわ出るわ……あまりの多さに声を失いました。当たり前のように研究データの改竄が行なわれ、それをもとに論文が作成 されていた。学生の論文というレベルではなく、医学部を代表する著名教授の研究室でも、当然のように不正が行なわれていた。不正論文の数は、現在、判明し ているものだけで28本にのぼります」

 その著名教授とは、腎臓病や高血圧など最も薬の需要が高い分野で、学会・製薬業界で知らぬ者はいないというX教授や、泌尿器や先駆的遺伝子治療の権威であるY教授らだ。まずX教授について。

「複数の論文で“細胞映像の使い回し”が確認されました。実験を繰り返すうちに、理想的な結果を示す細胞の状態が現われることがある。偶然に過ぎないので すが、その細胞の映像を光の露出も微妙に変えるなど細工をして何度も使い回すことによって、理想の研究結果が得られたかのように見せかけていた。完全に不 正な手法です。

 また、基礎研究、臨床研究を通じて、統計データが非常に杜撰。何度も同じ数値が現われるはずがないような研究にもかかわらず、不自然に数値が一致することも多数確認できました。データの扱い方に、深刻な問題がある」(榎本氏)

 次にY教授である。

「臨床研究につながる複数の論文において、実験結果の画像を不正に操作した疑いが強い。また、複数の学術雑誌に掲載された類似論文を比較すると、同一患者のデータが食い違っていることがある。どちらかのデータが捏造であるのは明らかです」(同前)

 いずれも告発された研究者は、医学部をリードする看板教授とその弟子たちだ。榎本氏らは科学者の立場から「データ改竄などあってはならない」と憤慨するが、薬学の専門家として、その背景は熟知している。

「科学のデータは、思うように取れないのが自然なんです。だから、みんな試行錯誤を繰り返す。ただ、研究者によっては、そんな時間がもったいないと、都合 のいいようにデータを改竄したり、あるいは他のデータを流用する人がいる。自分の組み立てたストーリーに、実験結果を当てはめるわけです」

 なぜデータ改竄を止められないのか。榎本氏が続ける。

「論文は、ばらつきのあるデータより、ストーリーに沿った整合性がある美しいデータの方が、高い評価を受け、それによって掲載雑誌のランクが上がります。論文の高評価が、学内の地位にも反映され、研究費や人事面でも優位となる。

 しかも、それに伴い製薬会社がアプローチしてくるようになる。そうすると、寄付講座(製薬会社からの奨学寄付金で行なう研究プロジェクトのこと)など “支援”を受けられるようになります。つまり、データ改竄によって、地位が上がり、カネに恵まれるわけで、科学者の良心を売り渡す人がいてもおかしくない 構造があるのです」

 その結果、国内外の有力製薬会社から支援を受け、総額で年間数億円の寄付講座を持つ教授が現われるのである。

※週刊ポスト2014年2月21日号


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今後どうなっていくんでしょうか。

2014年2月7日金曜日

岡山大:教授3人、学長らを告訴 名誉毀損など容疑

岡山大:教授3人、学長らを告訴 名誉毀損など容疑 /岡山

毎日新聞 2014年01月18日 地方版
 虚偽の文書を不当に放置したり、役職の再任を一方的に拒絶したりしたことは、名誉毀損(きそん)と公務員職権濫用(らんよう)の疑いがあるとして、岡山大の森山芳則薬学部長(60)ら教授3人が、森田潔学長と同大学ハラスメント防止委員会委員長の許南浩理事を、岡山地検に告訴した。森山教授らが17日、北区の同大学薬学部棟で記者会見して発表した。
 告訴状によると、「森山教授は研究論文をねつ造・改ざんした」とする虚偽の文書が匿名で大学や新聞各社 に送付され、名誉を傷つけられたのに、「ハラスメント防止委は不当に扱った」としている。森山教授は「私は科学者の一人として研究に人生をかけています。 見過ごすことはできません」と訴えた。
 また、大学院医歯薬学総合研究科の副研究科長だった榎本秀一教授(50)が他の教員の研究不正行為を告発したことが「あたかもハラスメント常習者と称して告発を不当に放置、隠蔽(いんぺい)し、一方的に副研究科長の再任を拒んだ」とし、公務員職権濫用になるとしている。
 岡山大企画・広報課は「具体的な内容が伝えられていないので、コメントできない」としている。【小園長治】

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真実が明らかになるといいと思います。

2014年2月4日火曜日

改ざん、国に調査要請 告発の元東大教授会見 J―ADNI

改ざん、国に調査要請 告発の元東大教授会見 J―ADNI

2014年2月4日05時00分

アルツハイマー病研究の国家プロジェクトJ―ADNI(アドニ)」の主要メンバーで研究データの改ざんを内部告発し ていた杉下守弘・元東大教授が3日、実名で記者会見した。データを扱ってきた事務局員が疑惑報道後に証拠資料を持ち出したと指摘。全資料を第三者の管理下 にただちに移し、国が主体的に調査するよう求める要請書を研究に予算を出す厚生労働、経済産業、文部科学の3省に送った。▼38面=動かぬ国、実名告発
 要請書などによると、杉下氏はデータチェックの責任者の一人。作業中に「データ改ざんというべき極めて不適切な問題」を発見し、昨年11月18日に厚労省に告発メールを送った。ところが厚労省は無断で告発対象の研究チームの責任者に転送し、調査しなかった。
 さらに朝日新聞が1月10日に改ざん疑惑を報道した後、製薬会社から出向している事務局員が研究責任者の指示で杉下氏が保管していた証拠資料を持 ち出したと指摘。この職員は不適切なデータ処理に関与した疑いがあり、疑惑がもみ消される恐れがあると判断して実名での告発に踏み切ったという。
 杉下氏は厚労省が研究チーム責任者が所属する東大に調査を任せたことを問題視し、「J―ADNI関係者から完全に独立した第三者」による調査と結果の全面公開を要請。「多額の国家予算が投じられるプロジェクトということで不当な改ざんの問題に目をつぶればJ―ADNIの科学的価値は失われ、アルツハイマー病患者をはじめ国民に損失をもたらす」と指摘した。
 厚労省は告発メールの漏洩(ろうえい)を謝罪する一方、「告発として受け止めると厚労省も調査に入らなければいけなくなる」(田村憲久厚労相)として内部告発として受理せず、東大に調査を依頼。2月中に結果の報告を求めているが、東大は3日現在、調査委員会を設立していない。(渡辺周、青木美希)

朝日新聞

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きちんと調査されるべきです。

告発、動かぬ厚労省「隠蔽される」 元教授、実名で会見

告発、動かぬ厚労省「隠蔽される」 元教授、実名で会見

2014年2月4日08時08分


アルツハイマー病研究の国家プロジェクトJ―ADNI(アドニ)」で、データ改ざん疑惑が浮上してまもなく1カ月。厚生労働省は東大に調査を丸投げし、疑惑解明に及び腰だ。「動かぬ厚労省」に業を煮やし、昨年11月に内部告発メールを送った研究者がついに実名での記者会見に踏み切った。

■「国際的信用を失う」
 「このままいくと隠蔽(いんぺい)される。心配になった」
 主要メンバーとして改ざん疑惑を見つけ、告発メールを送った脳血管研究所教授の杉下守弘・元東大教授は3日の会見で、実名を明かして真相究明を訴えるに至った心境をこう語った。
 当初は表舞台で訴えるつもりはなかった。だが、厚労省は告発メールを研究責任者の岩坪威東大教授に転送し、杉下氏が告発したことが研究者らの間に 知れわたった。さらに岩坪教授が報道関係者や研究者らに向けて杉下氏の人格を批判し、杉下氏が人間関係のもつれから告発に踏み切ったとの見方が厚労省内や 学界に広がった。
 杉下氏は告発前にも研究チーム内でデータ改ざんの恐れがあることを訴えていたが変わらなかった。厚労省に告発メールを送った後も担当者に2度会っ て訴えた。それでも厚労省は告発として受理せず、岩坪教授が所属する東大に調査を任せた。杉下氏は「私が告発したのは人間関係のもつれからではない。この ままだと日本の研究が国際的信用を失うからだ。問題を矮小化(わいしょうか)してはならない」と憤る。
 会見に同席した小池純一弁護士は「相当なお金が投じられているプロジェクト。研究成果が国際的に生かせなくなることを恐れている」と語った。
 厚労省は改ざん疑惑が報じられた1月10日に東大に電話で調査を打診。16日に東大の担当部長を呼んで2月末に報告を出すよう求めたが、調査は始まっていない。
 東大は内部の不正を調べる第三者を含む委員会を常設しているが、J―ADNIは 全国の研究者が参加しているためこの委員会は使えず、新たな委員会を立ち上げなければならない。東大本部広報課は「『こちらが調査するという認識はない』 と一度は断った。他の大学や病院への調査権はないので、どう調べたらいいのか」と困惑している。調査委発足の時期は見通しが立っていないという。
 第三者委員会に詳しい宮野勉弁護士は「データ処理などの専門知識のある第三者が調べることが必要だ」と話す。(渡辺周、月舘彩子)

朝日新聞

写し
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告発があった時に被告発者や調査機関が「告発者は人間関係のもつれから告発した。」と主張し告発や調査を妨害することはよくあります。例えば井上明久前東北大総長に対する匿名告発は悪意告発とみなされ、告発が二度と行われないような圧力がかけられました。

不正の合理的な根拠があれば、きちんと調査される必要があります。厚労省はきちんと調査してください。

2014年1月18日土曜日

改ざん告発、厚労省放置 2カ月前メール アルツハイマー病研究

改ざん告発、厚労省放置 2カ月前メール アルツハイマー病研究

アルツハイマー病の治療法確立を目指す国家プロジェクトJ―ADNI(アドニ)」の臨床研究データが書き換えられていた問題で、厚生労働省が研究関係者から「改ざんがある」と内部告発を昨年秋に受けながら、調査しないで放置していたことがわかった。今月初めに朝日新聞の取材を受けてから調べ始めた。
 朝日新聞が入手した資料と厚労省認知症・虐待防止対策推進室によると、「改ざんが数十例ある」とする研究メンバーのメールが、同室で担当の専門官へ昨年11月18日に送られてきた。

 メールには、プロジェクト事務局側が研究データの書き換えを指示する文書と、指示通りに書き換えられた検査記録の写しが添付されていた。

 しかし、メールを受け取った専門官は「改ざんを疑う証拠ではない」と判断し、調査しなかった。

 同室が関係者に聞き取りを始めたのは、今月6日から。4日に朝日新聞が取材したのがきっかけだった。厚労省はプロジェクトに約2億2千万円の補助金を出しているが、同室の勝又浜子室長は「補助しているだけなので、調査しなかった。当時の対応に問題はない」と説明する。今後の詳しい調査は、東大に要請した。勝又室長は「研究代表者のいる東大が責任を持つ」として、厚労省が主体的に調査する考えはないという。

 一方、調査を依頼された東大関係者は朝日新聞の取材に対し「代表者が所属している機関というだけで依頼されても(困る)」と話した。(渡辺周、月舘彩子)

朝日新聞
2014.1.17
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国の対応はだいたい同じです。

厚労省、疑惑解明二の足 改ざん告発、教授に対応一任/「人間関係の問題」

厚労省、疑惑解明二の足 改ざん告発、教授に対応一任/「人間関係の問題」
 

アルツハイマー病の治療法確立を目指す「J―ADNI(アドニ)」は、巨額予算が動く国家プロジェクトだ。厚生労働省は研究データが改ざんされたという内部告発メールを研究チームの責任者に転送していた。「疑惑をもみ消そうとした」との疑念を招いている。▼1面参照
 
 「国家プロジェクト改ざん問題があったら、大変なことです」。厚労省認知症・虐待防止対策推進室の勝又浜子室長は、朝日新聞から疑惑を指摘された今月4日、身を硬くした。勝又室長はこの時、部下の担当専門官が1カ月半前に改ざんを告発するメールを受け、研究チーム代表の岩坪威東大教授に転送したことをまだ知らなかった。
 専門官は「研究班で対応していただきたい」と書き添え、調査対象者であるはずの岩坪教授に対応を一任していた。岩坪教授はアルツハイマー病研究の第一人者として著名な医師だ。専門官も医師で、「岩坪先生は雲の上の存在。技官になる前は口をきく機会もなかった」と言う。補助金の支出先を監視するのが行政の役割なのに、同じ医師の世界で遠慮やなれ合いがあったとの指摘もある。
 勝又室長は朝日新聞の取材を受けた後、岩坪教授にただちに報告した。一方で取材には「岩坪教授と告発者の関係がうまくいっていなかった」と説明。研究チーム内の人間関係の問題にすり替え、疑惑解明に後ろ向きな姿勢を見せている。
 勝又室長から4日に連絡を受けた後、岩坪教授の動きは速かった。内部告発でデータ書き換えを指摘された京都府立医大に自ら連絡。2日後の6日に「誤記を後で直しただけで問題はなかった」と結論づけ、厚労省に報告した。
 京都府立医大の件は2009年8月の検査記録について、2カ月半後にJ―ADNI事務局側から「(国際的な検査手順に合うように)検査時間を修正して下さい」と指示されて直したものだ。同医大の医師は取材に「担当者に確たる記憶はない。『私が間違えたのだと思って直した覚えがある。あれがこのケースかな』という程度で当時の記録はない」と答え、あやふやな記憶で岩坪教授に回答したと認めた。
 岩坪教授は今月8日に取材に応じ、京都府立医大の件について「自主調査し、問題はなかった」と明言した。ところが、告発メールでは指摘されていなかった症状を実際より軽く記録する別の改ざん疑惑を指摘すると、「知らなかった。指摘通りなら間違った行為だ」と答えた。
 朝日新聞が改ざん疑惑を報じた10日、岩坪教授は報道機関に厚労省から聞いた告発者名を明かし、「妄想チックになる激しい人」などと伝えた。研究者からの問い合わせにも改ざんを否定した上、告発者名を挙げて「人間関係をもっと作り上げておけばよかった」などと釈明した。

 ■外部の検証求める声
 朝日新聞は10日に改ざん疑惑を報じた後、内部告発情報漏洩(ろうえい)の経緯について厚労省に取材を重ねるとともに、昨年11月に内部告発を受けながら調査してこなかった厚労省が実態解明できるのかという疑問も示してきた。田村憲久厚労相は17日の記者会見で「第三者的な立場から公平な調査をするべきだ」と述べ、岩坪教授が所属する東大に当面の調査を依頼したと明らかにした。
 厚労省が疑惑解明に消極的な背景には、J―ADNIには新年度も5億円の国費が入ることがある。研究チームのメンバーは「研究チームの外部に検証委員会を立ち上げなければ真相解明は無理」と指摘する。一方、調査を任された東大関係者は「厚労省が調べると思っていた。他大学の研究者を調査する権限がどこまであるのかわからない」と困惑しており、調査は難航しそうだ。(青木美希、渡辺周)

 ◆キーワード
 <内部告発者保護> 内部告発者への報復を禁じる公益通報者保護法は06年に施行された。不正を告発しやすくし、公益を守るのが理念。厚労省は08年に内部告発をした自治労共済職員の名を自治労側に伝える問題を起こし、職員4人を処分した。告発者は国家賠償を求め提訴し、係争中だ。

 ■J―ADNI内部告発を巡る情報漏洩の経緯
<2013年>
11月18日 内部告発者から厚労省の専門官に告発メールが届く
   19日 厚労省の専門官から告発者名が入った告発メールの文面が岩坪教授に渡る
<2014年>
1月4日 朝日新聞が厚労省に改ざん疑惑を指摘
  6日 厚労省が岩坪教授から聞き取り
  8日 岩坪教授がプロジェクト研究者に「万事収束に向かいます」とメールで報告
 10日 データの改ざん疑惑を朝日新聞が報道
  〃  研究者らからの問い合わせに岩坪教授が告発者名を伝える
 12日 岩坪教授がプロジェクト外の研究者にも「グループ内の一人の不満や極端な話」と釈明メールを送信

朝日新聞 2014.1.18

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告発しても人権が守られないと非常にまずいです。

臨床改ざん疑惑、厚労省が告発者名を漏洩 研究責任者に

写真・図版
内部告発をめぐる情報漏洩の構図

 アルツハイマー病の治療法確立を目指す国家プロジェクトJ―ADNI(アドニ)」を巡り、厚生労働省が臨床研究データの改ざんを指摘する実名入りの内部告発メールを無断で告発対象の研究チームの責任者に転送していたことが分かった。内部告発者の人権を著しく損なう行為で、国家公務員法守秘義務)や内規に触れる可能性もある。


 厚労省が国家プロジェクトを守るため疑惑をもみ消そうとしたとの疑念も招いており、厚労省の調査への信頼が揺らぐのは必至だ。
 厚労省認知症・虐待防止対策推進室によると、担当専門官に「改ざんが数十例ある」というメールが届いたのは昨年11月18日。J―ADNI事務局側がデータの書き換えを指示した文書と、その通りに書き換えられた検査記録が添付されていた。専門官は翌日、「研究チーム内で対処すること」と判断し、代表研究者の岩坪威東大教授にそのままの文面と添付資料をメールで送ったという。
 朝日新聞が改ざん疑惑を報じた今月10日、岩坪教授は研究者らからの問い合わせに告発者名を伝えて性格を批判し、告発内容に根拠はないとの認識を示した。
 厚労省の漏洩(ろうえい)によって告発者の名が業界内で知られる事態となり、告発者は取材に「私が悪者で研究の信頼性を損なわせたという評価が研究者の間に広まった。名誉毀損(きそん)だ」と主張。「厚労省が疑惑をもみ消そうとしているのではないか」と話している。
 国家公務員法は職務上知り得た秘密を漏らすことを禁止。国の公益通報者保護法のガイドラインは、内部告発者を守るための基本的な事項として「通報者が特定されないよう十分に配慮する」と明記している。
 朝日新聞の取材を踏まえ田村憲久厚労相は17日の記者会見で漏洩の詳細に触れなかったものの、告発メールへの対応について「(本人の)同意を得ないで確認作業に入った。適切ではなかった」と語った。内部告発者保護に詳しい中村雅人弁護士は「実名を伝えないのは最低限のルール。誰も通報しなくなり不正をただす機会が失われれば、国民に不利益になる」と指摘する。(渡辺周、月舘彩子)
    ◇
 〈内部告発者保護〉 内部告発者への報復を禁じる公益通報者保護法は06年に施行された。不正を告発しやすくし、公益を守るのが理念。厚労省は08年に内部告発をした自治労共済職員の名を自治労側に伝える問題を起こし、職員4人を処分した。告発者は国家賠償を求め提訴し、係争中だ。

渡辺周、月舘彩子
2014年1月18日11時12分
朝日新聞

写し.

2014年1月10日金曜日

国主導のアルツハイマー病研究で改ざんか 厚労省調査

国主導のアルツハイマー病研究で改ざんか 厚労省調査

朝日新聞デジタル 2014年1月10日(金)7時2分配信 

国主導のアルツハイマー病研究で改ざんか 厚労省調査
データの書き換えの例

 国と製薬会社が33億円を投じ、認知症の7割を占めるアルツハイマー病の早期発見を目指す国家プロジェクト「J―ADNI(アドニ)」で、臨床試験の データが改ざんされた可能性が浮上し、厚生労働省は調査を始めた。一定の時間を経た後に記憶を確かめる検査で時間を書き換えたり、不都合な症状を削除した りしていた疑いがある。先端医療を巡る国際競争が過熱する中で、日本の研究への信用が失われかねない事態だ。

 J―ADNIはアルツハイマー病の兆候を調べ、早期治療や新薬開発に役立てるのが目的。物忘れなどの症状と脳画像や血液との関連を研究する。これまで経 済産業省、厚労省、文部科学省が計24億円、製薬会社11社が計9億円を支出し、認知症研究の第一人者である東大の岩坪威教授(神経病理学)を代表に全国 38の医療施設が参加。製薬会社などがつくる「バイオテクノロジー開発技術研究組合」が事務局を担う。

 改ざんの疑いがあるのは、2008年から高齢者545人に行っている面談検査のデータ。研究成果の共有を目指す国際的な動きを踏まえ、先行する米国と同じ手順で検査し、解析結果を広く活用する計画だ。


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今度はJ―ADNIで改ざん疑惑。ディオバン、CASE-J、小林製薬の薬の治験データ改ざん、子宮頸がんワクチン論文の改ざんなど不正事件が続きます。